銀河漂流バイファム13
へなちょこストーリーダイジェスト
第18話


「違うったら違うんだーっ!! はぁ、はぁ、前回から、ずっと、
 叫び続けて、疲れた… くそっ! フレッドのやつ、覚えてろよ!!
 僕は女装癖なんてないし、お腹が痛いって言ってるじゃないか!
 それにしてもこのままでは僕の立場が危ない。毎日をあんな目で
 見られて過ごすなんて僕には耐えられない。どうすれば… そうだ!」

ボギー制御不能!
浮遊機雷の恐怖

「幽霊の正体を暴けばいいんだ!」
 「だるまさんが… ころんだっ!!」
「何言ってんの、キャップ?」
 マキの一言。
 冷たいのは視線だけではなかった。
 「あっ! うーごいた!」
「幽霊の正体はもうわかってるでしょ、スコットさん!」
 フレッドが冷たく言い放つ。
 「うごいてないわよぉ!」
「それより航路データの入力画面が乱れるんでしょう?」
 苛立つカチュア。
 「うごいたよぉ!」
「ああ… ボギー、大丈夫かなぁ? この間から調子悪いけど…」
 「うごいてないもん!」
「これくらいなら平気ですっ!! ボギー、航法システムに異常は?」
<<異常ありません>>
 「だってみたもん!」
「…仕方ない。ボギー、航路データを更新するぞ!」
 歯ぎしりするスコット。
 「ぜんぜんうごいてなーいっ!!」
「動いてても動いてなくてもいいからあっちいってろっ!!」
 「いいもん! あっちいくもん!」
 「スコットおにいちゃんのいじわる!」
 しまった… せっかくの数少ない支持者だったのに…
 ブリッジで遊んでいたマルロとルチーナを怒らせたスコットは、
改めて激しく落ち込んだ。後悔先に立たず。

<<だから、間違ってるって言ってるじゃないですか! データが
間違ってるんですってば!>>
「何だとぉ! コンピューターの分際でっ!!」
<<このデータだったら、どう頑張ってもどこにも行けませんよ! 
もう知りません!>>
「くそっ!」
 あれから何度やってもデータ登録出来ずに苛立つスコット。
 スコット作成のデータを無理矢理何度も登録され苛立つボギー。
 激しい攻防の果て、ついにキャプテン権限で強硬手段に出る。
「こうなったら実力行使だ! おやすみ、ボギー… あんたの時代
は終わったよ」
<<ちょっとまった! 火災発生! 火災発生!>>
「…嘘ついてるんじゃないだろうな?」
<<こんな大事なことで嘘なんかつけません!!>>
「…! 火災だって!? これぞ名誉挽回のチャンス! ううっ、
まだお腹が本調子じゃないけど… みんな、僕についてこいっ!!
火事はどこだーっ!! 消火器はっ!? 安全ピンはこれかーっ!!」
 スコットは、自らのひらめきだけで危険な行動を選んだ。マキ・
カチュア・フレッドも仕方なく後に続く。

 勢いよく開いたドア。
 食堂に居合わせたクレア・ペンチに加え、スコットにブリッジを
追い出されたマルロとルチーナも仕方なく食事の準備をしていた。
 その横を猛然と突き進む一行。
 ブリッジの4人+野次馬シャロンがなだれ込んだキッチンでは、
実際は大きな火事は発生していなかった。
「どこだよ、火事って?」
「別に何もなさそうだけど…」
「わっ、みんな押すな、押すなって… うわーっ!」
 ピンを抜いていたのが身の不運。
「どうした?」
「火災警報器鳴ったろ…?」
 慌ててロディ達も駆けつけたが、既にキッチン全体が、消火剤の
粉まみれになっていた。
「またスコットか…」
「だな。何しろ昔自分で火災警報器に…」
 バーツがそこまで口にした時、スコットが大声で割って入る。
「な、何言ってるんだ、バーツ!! 火災発生ってボギーが言った
から…!!」
「確かに、ボヤはあったみたいだよ、兄さん」
 フレッドは冷静に原因を突き止めた。結果は、ルチーナの指差す
先にあったのだが。
「自動調理機の中のものが焦げてたんだよ!」
 で、その調理機を開けてビックリ。
「何だこれ? キャベツ?」
「ほら、いつかキャベツ千切り競争やったじゃない? あれの残り」
「まだあったのか…」
 露骨に嫌そうな顔のスコット。いい加減食べ飽きていたらしい。
「調理終了まであと3時間も残ってる。ほら、タイマーが…」
というペンチの問いかけに、フレッドが飛びつく。
「そんなの駄目だよ。ラップもかけずに、生野菜を長時間レンジに
入れるなんて… 火災の原因としては充分だよ」
 名探偵の博識が冴える。
「でも、別に今日のお料理に使う予定は無かったのよ?」
 クレアの弁明に、ペンチが合わせる。
「そうそう、グラタンとおでんだったんだから」
 なるほど、取り合わせは別にして特にキャベツをチンする理由は
なさそうである。
「とにかく、調理機の暴走… またボギーか…」
 そのいやらしいキャプテンの一言に、怒り心頭の者がいた。
「ボギーを責めないでっ! ボギーは、煙を感じたから火災警報を
出したんです!」
 カチュアである。
「確かにそうだけど…」
「戦闘で電源のショートがあってからボギーはちょっとした誤作動
を起こしてるだけなんです!」
「でもカチュア、その誤作動が問題なんだよ!」
「だったら私が修理します! すればいいんでしょ! ええ、修理
させて頂きますとも! …え〜ん、スコットさんのばか〜っ!!」
 泣きながらキッチンを去るカチュア。
「カチュアが、こわれたぜ…」
「珍しい…」
「永久保存版録画テープに、間違えて別のアニメ番組を上書き録画
しちまったんじゃないの?」
 確かに、それほど珍しい態度ではある。
 だが、理由を知る者もいた。
「みんな言い過ぎだよ! カチュアは、寝る間も惜しんで、ずっと
ボギーのメンテをやってたんだよ? 夕べも徹夜したみたいだし。
今朝、一番にブリッジに行ったら…」
 フレッドは今朝の出来事を振り返る。

「ふわぁ… ん?」
「サ〜ビスエ〜〜ス〜〜〜〜… このいっきゅうに〜かけた〜…」
「カ、カチュア、どうしたの? …ねぇ、カチュア!」
「あ、フレッド… おはよう… うふ、うふふ…」
「おはよう… 徹夜したの?」
「だからintは嫌いなのよ! どうしてlongならlongを
使わないの!? そういう人に限ってグローバル変数を多用して…」
「…一度部屋に戻ってきちんと寝たら?」
「大丈夫よぉ… だれにも〜ま〜け〜はし〜な〜い〜〜〜…」

「って、眠らずにそのまま眠気覚ましの鼻歌を歌い続けて…」
「それで彼女、くまが出来てたのね?」
「くま?」
「くまってどこ? ねぇ、どこどこどこ?」
 マルロとルチーナのボケにけなげに答えるスコット。
「くまっていうのはね… あまり眠っていないとね…」
「ルチーナ、あっちいってあそぼ!」
「うん!」
 案外ネに持つ二人だった。
 三輪車とかぬいぐるみとかいっぱい買ってやったのに!
 こういう発想自体が好感度を下げるということにスコットはまだ
気付いていない。
「僕、修理を手伝ってくるよ!」
「俺も行く!」
 フレッドに負けじと?ロディも後を追う。
「ま、どっちにしても、今はボギーもキャップも信用できないのは
確かだぜ?」
「そ、そんなことないよね? お願いだから信用してくれよぉ!」
 みんなの視線は相変わらず冷たかった。

 コンピュータールームでは、早速ロディ達が、各部品を一つ一つ
手際よく検査していた。
 カチュアは、つい思わず現状をわかりやすく説明してしまう。
「ボギーはお腹が痛いんです。内臓が悪いと、顔色が悪くなったり
するでしょ? (…5分経過…) それって、顔のおできしか治療
しなかったのと同じなんです」
 その間にも淡々と作業するロディとフレッド。
 あまりちゃんと説明を聞いてないようにも見えたが、フレッドは
その説明にひっかけて、一つ面白い話をした。
「確か兄さん、母さんに隠れてコーヒー飲み過ぎて、口のまわりに
ぶちぶちが出来たじゃない? それとおんなじだ!」
「フレッド!」
 余計な事を言われてカッコ悪さ満載のロディ。主人公の面目… 
もともとないか、このダイジェストでは。
 フレッドもフレッド、まったく遠慮ない。
「だって本当のことじゃない!」
 弟の傍若無人ぶりに、恥じ話は一つで済まなくなった。
「そんなこと言ったらお前だって、母さんに隠れて生卵6個飲んだ
時に、目をこすって、湿疹出て大変だったじゃないか!?」
 途端に睨みあう二人。
「兄さん、お隣の奥さんのお風呂覗いてた時があったじゃない!?
お隣さんにバレて怒鳴り込んできた時かばってあげたの誰だっけ?」
「お前だって道端でエロ本見つけて持って帰ってきた時、母さんに
バレそうになったじゃないか! 助けてやった恩を忘れたのか!?」

 砲座整備マニュアルを手に、悩むケンツ。
 読めない字があるというのは、書物を読む上で致命傷になりうる。
 通路を歩きながら、マニュアルを読みつつ悩んでいたケンツは、
そんな状態だからヤギのお尻にぶつかった。
「お、ジミー、ご機嫌だな!?」
「うん… メリーが、見つかったから」
 久々のヤギを引き連れての登場に、本人も御満悦。
「そっか! 最近見なかったもんな。で、どこにいたんだ?」
「食堂の前を、歩いてた…」
「はぁ? なんでそんなところに… ま、何にしても、見つかって
よかったじゃんか!」
「うん… でも… 変な跡がついてる…」
「ほんとだ、何だろう? あ、そうだ、お前、これ読めるか!?」
 ジミーの前に砲座の点検マニュアルを差し出す。
「えっと… 遠い、遠い、ケンタウルスよりも遠い…」
「お前何読んでんだよ!? これだよ、これ! 何を確かめろって
書いてあるんだ?」
「てもみ…」「お茶じゃねーだろ!?」
「とろみ…」「スープでもねーよ!」
「くるみ…」「割ってどうすんだよ!」
「おもみ…」「お前いい加減に… あ、いいのか?」
「ゆがみ…」「そっかそっか! いやぁ、俺も重みじゃないかって
思ってたんだ! おれが間違ってなかった事がわかればいいんだよ!」
「ひがみ…」「もういいっての!」

「ボギー、なおりそうなのか?」
 スコットはブリッジでカチュアからの艦内通話を受けていた。
<<うまくいきそうです。一度ボギーを完全に停止させます>>
「わかった。マキ! ボギーしばらく止まるってさ?」
 前を向いたまま、首を縦に振るマキ。
<<キャップの方はなおりそうですか?>>
「あ、ああ、何とかお腹の痛みもおさまってきたよ… ありがとう!
僕の身体をそんなに気遣ってくれてたなんて…」
<<違います! おつむの方です!!>>
 …ガチャッ!
 乱暴に受話器を置くスコット。
「それにしても、いくらアタイ達が慣れてきたからって、熟練クルー
何十人分もの仕事をするのはやっぱり無理があるよ…」
 マキの愚痴は、マニュアル操艦によるストレスから来る。
「ボギーがこの調子じゃあしょうがないんだ。我慢してくれよ」
「ん? あれ、何だ?」
 人の話を聞け! と言う前に、バーツの言葉に反応するスコット。
「何だろう? スクリーンのシミじゃないのか?」

「大丈夫?」
 消化剤の掃除というのは結構面倒くさい… クレアはこういう事
をしておいて後片付けしないスコットに腹立たしさを感じつつも、
掃除機をかけながらシャロンに声をかける。
「だいじょーぶだって。簡易サウナより簡単そうジャン?」
 キッチンでは、シャロンによって今まさに調理機が分解されよう
としていた。
 ところが…
「あっ! 何だオマエ!」
 彼女はふとドアの向こうに影を見た。
 人の姿であれば、別に叫びはしなかっただろう。
 だが、かなり丸っこい胴体は、どう見ても人間ではない。
「どうしたの?」
 単なる野次馬ペンチに尋ねられ、何故か幽霊の姿が頭をよぎる。
「い、今、そこに、誰かいたんだ! ほんと、だって!!」
 その大声を聞いたせいか、ふっと影が消える。
 代わりに、機械音のような妙な足音が通路に響いた。
 ん? 機械、音?
 急に現実的になるシャロン。
「ちょっと待てよ! なんで逃げるんだよ! 待てぇ!」
 シャロンは左手で調理機を放り投げ、逃げ去ろうとしていた物体
にぶつけた。

「スケベな映画ばかりやってて大人しか入れない映画館に裏口から
侵入しようとしてたでしょ!?」
「スカートはいた女の子を階段の下から覗き込んでいたのは誰だ!?」
「それ言うんだったら兄さんだって…!」
「なんだと! お前こそ…!」
 そんな、仲の良さをうかがわせる微笑ましい兄弟喧嘩をよそに、
交換して不要になった故障パーツを手に、独り言をつぶやく少女。
「この部品が故障してたのね。(…10分経過…) これでやっと
ボギーも元気になるわ、うふ、うふふ…」
 力ない笑みで説明したカチュアは、そばにある端末の前に座る。
「さぁ、ボギー、お目覚めよ…」
 モニターに、端末が正常に動作した証拠となる、初期画面が表示
された。と、同時に、音声でも語りかけてくる。
<<やっとつながったぁ! オレ待ちくたびれちゃってさぁ>>
 随分気さくな応対なのだが、とりあえず起動したので、各機能の
チェックに入ると、カチュアの作業する手が止まった。
「大丈夫、ちゃんと機能して… あら?」
 一部データに不正なものがあると画面に表示されて、うまく起動
しないようなのだ。
「駄目だわ… ううっ…」
 か細い声で泣き崩れるカチュア。
 徹夜してもこの仕打ち、かわいそうに… と、ロディもフレッド
も同情しようとしていた矢先…
「もういや… あの人ひどいんです。私の大切なポスターを無断で
持ち出した挙げ句、ピンどめの穴までたくさん開けて…」
 なんでやねん!?
 実際の愚痴はシャッフル兄弟の想像とは全く違う内容だった。
 対してボギーが愛想よく答える。
<<あんたも大変だなぁ?>>
「…!? ボギー、私の気持ち、わかってくれるの?」
<<そりゃそーだ。うちの大将はそりゃあ飛びぬけたアホでオレが
面倒みてやんなきゃ危なっかしくてロクなもんじゃないからなぁ…>>
 一瞬心が凍り付く三人。
 うちの、大将?
 それがスコットの事を指すのだろうと思いつつ、黙ったまま目を
大きく見開く一同。
 大将というよりは愚か者じゃないのか? と、マッチした呼び方
を見つけて御満悦のロディ。
 どちらかといえばキャップではないわ… と、ニャンコ先生との
特訓で涙するケンツを思い浮かべるカチュア。
 だから全然誠意が足りなかったんだね… と、ぐんを抜く発想で
他の二人をリードするフレッド。
 思い浮かべる事は様々だったが、共通する違和感がこの場の空気
を怪しげに変えた。
 そんなこととはつゆ知らず、なおもしゃべり続けるボギー。
<<この前なんかよぉ、浜辺のバイトでアイスクリーム売り歩いて
いるとき、ズボンが脱げて丸見えんなってんのに全然気付かなくて
ずーっと売り続けてんだから。まったくやんなっちゃうな>>
 浜辺で、バイト?
 やはり首を傾げて悩む一同。
 そりゃあスコットはドジでノロマでおっちょこちょいだが浜辺で
バイトなんかするようなイキでイナセなビーチボーイか?
 今度は全員一致。論点は違うが、怪しむには充分だった。
「一体何を言ってるの、ボギー… 私には、わからないわ…」
 悲しげにつぶやく少女に、コンピューターが慰めの言葉を贈る。
<<まあまあ、人生テキトーにやってりゃなんとかなるって>>
 ハッと、何かにとり憑かれた様に勢い良く顔を上げるカチュア。
 その自信に満ちた笑顔は、ロディ達にはどこか歪んで見えた。
「違う、あなたはボギーじゃないわ! 適当という言葉はボギーの
辞書にはないもの! …あなたは一体、誰?」
<<あ、ヤバい! んじゃ、タッチ>>
 …タッチ?
<<修理モジュールの接続は成功しました。ただしデータの一部に
不具合があり…>>
 ???
 困惑を隠せない三人。
「そ、そうだ、カチュア、夕べ徹夜したから…」
「そ、そうね、私、疲れてるんだわ、きっと…」
「そ、そういうことにしておこうよ、あはは…」
 現状に耐え切れなくなったのか、ロディ・カチュア・フレッドは
互いの目を見ることもなくそう呟き合った。

 今一つ納得出来ないままブリッジに戻ってきた三人は、スコット
の狼狽ぶりを目の当たりに。
「あ、あれ…」
 どうみてもスクリーンのシミではすまない大きさに映る謎の物体。
「やっぱ敵だぜ?」
 バーツの読みにロディも納得する。
「どうやらそうらしい。とりあえずバイファムで出るか?」
「だな。また活躍出来そうにないがな…」
「まったくだ。ブリッジにいた方が目立つんだよなぁ…」
 ロディもバーツもトボトボと寂しそうにブリッジを出た。
 対して「目立てる」ブリッジ組。
「ボギーを元に戻すんだ!」
「熱の原因をとらなきゃ…」
「アタイも手伝う!」
「何を、今さらボギーなんて…」
 一人気合の入らないスコットに、食らいつく者がいた。
「ボギーは絶対に悪くありません!」
 まるで納期直前一週間連続徹夜状態のプログラマーのごとく鬼気
迫るカチュアの叫び。
「しかし、この状況では…」
「スコットさん、自分の置かれている現状が不都合だからって、
何でもかんでもボギーに八つ当たりするのはやめてください!」
 ボギーと一体化した感のあるカチュア。既に、ボギーへの冒涜は
自分への冒涜、と考えつつある。
「ボギーはお腹をこわしていただけなんです!」
「だから僕もお腹をこわして…」
「ふざけないでくださいっ!!」
「ふざけてなんかいないっ!!」
 確かに彼の腹痛は現状の事実である。さすがのカチュアも事実に
大しては従順だ。
「…それで、お腹は直りましたが、まだ熱があるんです。ゆっくり
休養を取ればそのうち…」
 ボギーの現状説明に逃げるところが彼女らしい。
 それでも一歩も退かないスコット。
「この危機的状況でそんな暇はないっ!!」
 自分だって熱出して寝込んでたくせに… これだけは言わないで
おこうと思う、優しいカチュアだった。
 などなど行われているうちに、いつの間にかボギー環境の復元が
進んでいた。
<<現在の航路設定条件に関するデータ入力率15%です>>
 クルー一同、耳を疑う。
「ん? 今の声、何だかシャロンに似ているような…」
<<Alarm Message… 前方未確認浮遊物多数>>
 またしても耳を疑う。
「なんかいつもと違う雰囲気… とにかく分析してみてくれ!」
<<Ready…>>
「は?」
 どうも受け答えが違う。しかも、声まで違う。
 間違いない! シャロンのやつ、また何か企んでるんだな!?
<<…機雷と思われます>>
 シャロンいたずら説に思いを巡らせている間、分析結果をろくに
聞かなかったせいで、最後の方の言葉しかわからないスコット。
「あなたの事を嫌いと思われます… 機雷なんて嫌い! なーんて… 
あら? えっ!? もしかしてこれって…?」
 キャプテンは自分の言葉に打ち震える。
 うーん、素晴らしい! メモしようっと… しまった! ボギー、
まだ止まってるんだっけ!
 何故か急に、一刻も早くボギーを復旧して欲しいと願うスコット。
 そのキャプテンシートの後ろから、ふいにシャロンの声がした。
「おーい、わかったわかった! 調理機の故障の原因が!!」
 シャロン=さっきのボギーの声にそっくり=ボギー不調の原因=
今彼がボギーにアクセスしたいのにできない原因!!
「き、君が、ボギーに成り代わって、いたずらしていたんだな!?」
 勢いあるスコットの迫り方に、シャロンたじたじ。
「はぁ? 何言ってんだよキャップ!! コレだっての、コレ!」
 ブリッジの面々が一斉に通路を凝視する。
「ほら、コイツが悪さしてたんだ、よっと! 重いな、オマエ!」
<<あっ、ちょ、ちょっと、勘弁してください〜!>>
「な、何だぁ!?」
 驚くスコット。いや、皆驚いているのだが、声にならないのだ。
 まだ、シルエットしかわからなかったが、異様な物体であるのは
確かだった。
「騒いでねーでさっさとこっち来いっ!」
 シャロンが思い切り縄を引っ張る。
<<ごめんなさい〜っ! 使い方がわからなかっただけなんです!
市中引き回しの上はりつけはイヤ〜っ!!>>
 一瞬、スコットは自分の目を疑った。
 そこに転がっていたのは、白・水色・赤を基調とした色使いの、
妙に愛敬のある顔立ちのロボットだったのである。
「何だ、これ? 新手のパペットか? …自分でしゃべってる!? 
もしかして、ククトニアンの新兵器か!?」
 立ち上がると、スコットより背は低く、横幅はある。
 その姿を見て、すかさずスコットの隣に駆け寄るクレア。
「これ知ってるわ。今、地球で流行ってる通学用ロボットでしょ? 
チョッパーハンドルとかついていて、ガクラン着た人達がハコ乗り
したりするのよね? ねっ!?」
 さすがは、ジェイナスきってのミーハーギャル。時代の最先端に
今でもしっかりと乗っかっているので、クルーにとっても頼もしい
かぎりだ。
<<流行と言うよりも、義務づけられているのですが… それに、
そんなハンドルもハコ乗りも関係ありません>>
「うわぁ! ロボットだ!」
「すっごーい! おしゃべりできるの!?」
「なまえは?」
「ねえ、おなまえなんてゆーの?」
 寄ってきたマルロとルチーナの瞳が大いに潤んでいる。
 思わず、久しぶりに孫に会ったおじいさんのごとく、気が緩んで
しまうロボット。
<<僕はジャンブー。お友達になりましょう。かわいいお坊ちゃん
お嬢ちゃんですね。あなたがたのお子さんですか?>>
 愛想よく振る舞って、ご機嫌を取れば何とかなるとでも思ったの
だろうか? とにかく、指?を差した相手が悪かった。

「まったく、ロボットのくせに気絶するなんてどうかしてるよ!?」
 スコットの嘆きももっともだ。
<<もう少しロボットをいたわってくださいっ! 私は精密機器で
出来てるんですよ!!>>
 何故か、加害者ではなくスコットの方を向いてしゃべるロボット。
「いーや、さっきのはお前が悪いんだぞ!? 彼女、あー見えても
デリカシーのかたまりだから」
<<そ、そうですか…>>
 そのデリカシーのかたまりに回し蹴りを食らったわけで、いくら
ロボットといえどもダメージが少なくないわけだ。
「そうだ! 全部お前が悪い! 水まわりの調子が悪かったのも、
幽霊騒ぎも、よってたかってお前のせいじゃないのか?」
<<ギクッ! い、いえ、そんなことは…>>
「わかりやすいロボットだなぁ…」
<<わ、私は何も知りません! ホントだってば!!>>
「こら、目を背けるんじゃない!! きちんと白状しろっ!!」
 ロボットの方も負けてはいない。
<<そんなこと言うんでしたら、今朝入力した航路データ間違って
ますけど!?>>
「この期に及んでまだそんなことを!! ちょっとこっちに来いっ!!」
 ブリッジからロボットを引きずり出すスコット。
「ちょっと、キャップ! あれ、どーすんのよ!?」
 マキの指差す先には、広大な宇宙と無数の機雷。
「適当に処理しといてくれっ!」
 一同絶句。

「そうだったんだ! やっぱり全部そうだったんだ!!」
 喜び勇んでブリッジに戻るスコット。自信が言葉になって現れる。
「あのロボット、ついに白状したぞぉ!! フレッド! 罰として
今日から一週間、一人だけでトイレ掃除だぁっ!!」
 その、ジェイナス内では残酷極まりない処罰に対してもニヤリと
ほくそえむフレッド。
「スコットさん、あのロボットが言ってた通り、航路データ間違い
だらけだよ!」
 まだまだ自信たっぷりに返すキャプテン。
「そんなバカな! 僕がデータを間違えるはずはないっ! 何度も
見直して、完璧に仕上げたんだぞ!! ”と’とか、;と:とか、
9とQとqとpとgと…」
「確かにデータは間違いないよ。1とLの小文字も間違ってないし。
でも… ほら! 全部2バイトのJISコードで入ってるんだ! 
これじゃあ教授も勉君もビックリだよ!」
 リストしたデータをじっくり見てみると、なるほど全ての英数字
が大きな文字になっている。
「えっ? だって、これでいいんじゃあ…」
「駄目だよそんなの! 全部1バイトコードの文字で入れなきゃ!」
「…ホント?」
「そんなの常識だよ! かな漢字変換モジュールをONにしたまま
だったんじゃない?」
「ちょっと待って! そもそもどうしてかな漢字変換モジュールを
ONにする必要があるの?」
 クレアも鋭いツッコミを入れる。
 しまった…!
 キャプテンは露骨にうろたえ、周囲のものは露骨に疑いの眼差し
を向ける。
 まるで、オフィス内のコンピューターで勝手にインターネットに
接続してアッハーンでウッフーンなWebページを見ていたことが
通信ログ調査でバレそうになって妙にうろたえる不良社員のごとく、
顔面蒼白なスコット。
 それもそのはず。
 これじゃあ、キャプテンシートで仕事をしている様に見せかけて
思い付いたダジャレをボギーのパーソナルフォルダにメモ書きして
いる事がバレてしまうじゃないか!?
 ま、事例と似たり寄ったりなわけで。
 こうなると、考えられる言動として最も多いと思われるのは…
「まったく記憶にございません」
 白を切ることだけだった。

<<やっぱ、案外あっさり片付いちまったな、ロディ? さっさと
帰ってひと風呂浴びようぜ?>>
「なぁ、やっぱり俺達の戦闘シーン、意識的に避けられてないか?」
<<…だな。今回サブタイトル、『浮遊機雷の恐怖』だろ? 全然
恐怖でも何でも無かったぜ>>
「まったくだ。ダイジェストとはいえ、戦闘シーンのないロボット
アニメなんて… これじゃあバイファムなんて要らないんじゃない
のか?」
<<実際、この番組に限って言えば日常シーンの方が目立てるから
なぁ。スコットなんてあんな調子で一番目立ってるぜ!?>>
「…ん?」
<<どうした、ロディ?>>
「今ジェイナスから何かが出ていったような…」
<<レーダーに反応無し、ジェイナスからの連絡も無し。モニター
のシミじゃないのか?>>

 ブリッジ。
「はい、カチュア… 怒りっぽいのは、カルシウムが足りないせい
だから…」
 ミルクを渡され、優しく振る舞われると、思わず目頭が熱くなる。
「ありがとう、ジミー。でも、それならもっともっとミルクが必要
だわ?」
 二人が視線を移した先には、キャプテンシートに座るスコットと、
それを取り囲むクルー達がいた。
「よくこんなのでジェイナスが動いてたわねぇ?」
 クレアが呆れ返る。幼なじみをかばい続けるにも限界がある
「今まで調子が悪かったのは全部スコットのせいだったんだな!?」
 続いて、今帰ってきて説明を受けたばかりのロディが、ここぞと
ばかりになじる。さすがは主人公だ。
「ま、まて、そんな… 僕が入力したのは航路データだけだし… 
大体、あのへんてこなロボットが…」
「逆に、結構必死にカバーしてくれてたみたいだよ?」
 フレッドは既に状況を調べ終えていた。相変わらず冴えている。
「じゃあやっぱりボギーが…」
「ボギーは悪くありませんっ!!」
 …どっちかというと、今の君のその顔の方が幽霊じゃないのかっ!?
 もちろんスコットもこの場でそれを言う程おバカさんではないが、
それほどカチュアの目の下のくまが恐い。
「面白そうなロボットだったじゃない!? ジェイナスのお手伝い
さんってのもよかったんじゃないかな?」
 マキの思いつきで、バーツも思いつく。
「あれ? そういえば、どうしたんだ? そのロボットってのは?」
「いやぁ、それがそのぉ、逃げられちゃってさぁ」
 あまりにもあっさりとスコットが言い放つので一同呆れるばかり。
「それにしてもあのロボットさん、どこからきたのかなぁ?」
「遠い、遠いケンタウルスよりも…」
 せっかくのマルロの問いかけに答えていたジミーだが、この瞬間
から気絶状態に入った。
「さぁ、どこからかしら…」
 マルロと同じように悩むペンチ。
「あっ! そういやぁルービンさんが密航者がどうのこうの言って
たよなぁ。ラピスの母船から逃げだしてジェイナスを乗っ取ろうと
してるやつがいるとか何とか…」
「そう、それだそれ! それなんだよ! もっと早く言ってくれよ!!
きっと密航者がこの艦を乗っ取ろうと…!」
 ケンツの独り言がスコットに助け船を出したようにも思われた。
 ところが、
「じゃあ、それまでの不調はどうやって説明するんですか!?」
と、あまりにも筋の通った、きついペンチの一言。
「そ、それじゃあやっぱりこれは不幸な事故だったんだ! 偶然が
偶然を呼んで…」
「いーや、全部お前が悪いっ!!」
 バーツの一言がキャプテンにトドメをさした。

「なんだかんだでタウト星にかなり近づいた。でも… どうにでも
 してくれよ。女装癖の疑いがはれたと思ったら今度はジェイナス
 不調の原因か… そうさ! 防火シャッターが壊れていたのも、
 エアコンが故障したのも、ペンチが間違えて133食作ったのも、
 全部僕が悪いんだ! そうだろうっ!? …くすん」