銀河漂流バイファム13
へなちょこストーリーダイジェスト
第17話


「ふぅ、大変だった… あんな事になるなんて、思いもしなかった
 から。だけど、あんなにたまった洗濯物を僕とロディだけで処理
 するなんて無茶苦茶だよ。水道の修理だけでも大変だってのに。
 まったく、みんなキャプテンである僕の事をどう思ってるんだ!?
 はぁ、またお腹が痛くなってきた…」

 へったよぉ…
 えっ?
 耳を澄ますと、かすかに声が聞こえる。
 草木も眠る丑三つ時。
 ここは、戦いのワンダーランドペンチとシャロンの部屋。
「なんだこの音… 音じゃない、声だ…」
 気付いたのはシャロンの方だった。
 くいたいよぉ…
 その声が徐々に自分達の部屋に近づいてきたのか、大きくなって
きた。
 シャロンの恐怖心も徐々に膨れ上がる。
 思わずベッドから這い出ると、二段ベッドの上段にあがる。
「ペンチ! ペンチ!! 起きてくれよ、ペンチ!!」
 歯をガタガタ鳴らしながら必死に宿敵ルームメイトを起こすも…
「名字はイライザよぉ…」
 わけのわからない寝言と共に、ハードカバー版推理小説本を枕に
して寝返りをうつペンチ。
 その度胸の座り様に感心するも、ひたすらペンチの身体をゆする
シャロン。
「こ、怖えーよぉ! 怖えーんだってばぁ!! 聞こえねーのか?
なんでオマエこんな時にグーグー寝てられるんだよぉ!?」
 いくら罵られてもペンチはおへそを出しての高いびき。
 あーっ! 一体誰なんだよぉ…
 あのガキんこども、まさか、オレが喉渇いた時にメリーのミルク
ピンはねしてたの知っててジェイナスに呪いをかけていったんじゃ…
それとも前回オレに代わって溺れかかったクレアやマキのしわざ…
 ふと、シャロンは自分の台詞によってあることに気付く。
 そ、そうか! 誰かのいたずらだ!
 そう思うと一瞬怖くなくなったのだろうか?
 声の正体を確かめるべく、意を決したシャロンがドアをそっと、
そーっと開けようとした瞬間…
『くいたいーっ!!』
 一瞬の間をおいて…
「ぎゃーっ!」
 シャロンはドアを開けることなく瞬時に二段ベッドの上段に駆け
込んだ。

出た? 出た! 出た!!
真夜中のゆうれい騒動

「えっ? オバケ?」
 その単語が出た途端、かなり嫌な顔をするスコット。
 お腹の辺りを左手でさすりながら、それでもとりあえず話を聞く
ことにした。
「出たんだよ夕べ! 気味悪い… 多分オンナの、甲高い叫び声!
『はらへったーっ!』とか『くいたいーっ!』とか叫ぶんだってば!」
 ブリッジでシャロンが騒ぐのはかなり珍しい光景ではある。
 苦虫を噛んだ様な気まずい表情を浮かべたスコットだが、ついに
重い口を開いた。
「…で、今度は誰の誕生日なんだい?」
「さぁ…」
「わかんねぇなぁ…」
 聞かれたロディとバーツは、ただ首を傾げるばかり。
「クレアは?」
「あたしにも全然見当がつかないんだけど…」
「シャロン、誰かの分と一ヶ月くらい勘違いしてるんじゃない?」
 マキのお気楽な結論に、怒りをあらわにするシャロン。
「何言ってんだよ! そうじゃねーって!」
 そのやりとりを聞いていて何か思い付いたフレッドが問い掛ける。
「じゃあ同じ部屋のペンチもその変な声を聞いたんだね?」
「起こしたんだけど… ぐえっ!!」
 突然しゃがみこむシャロンのそばで、つい先程までは素知らぬ顔
で夕食のメニューを考えていたくせに、急にこの世の一大事とでも
言いたげなペンチの訴えが始まった。
「確かに私も聞いたわ!! えっと、確か、とても気味悪い男の人
の声だったと…」
「あれ? さっきシャロンは女だって… ぐはっ!!」
 うずくまるフレッドのそばで、叫び続けるペンチ。
「私が嘘をついてるっていうんですか!?」
「い、いや、なんにも言ってないんだけど…」
 たじたじのスコットは苦肉の策として、
「じゃあ、もし同じことがまた起こるようだったら、ちゃーんと
調べてみるよ。あ、ちょっとトイレ…」
と適当な回避策を申し出て、とりあえずこの場は一件落着。
「そんな…」
 一応不安げな顔をしてはみせるが、彼女の胸の内は違う。
 別にどうでもいいわ。どうせシャロンの悪ふざけなんでしょ?

「ペンチの部屋の上ってぇと… この辺だなぁ?」
「ケンツ、戻ろうよぉ…?」
 ケンツと共にやってきたのは、あのペンチの不安げな表情を少し
でも笑顔に変えたいと願うフレッドだった。
「何言ってんだよ! 調べに来ようって言ったのお前だろ!?」
「で、でも、幽霊なんて、本当に、いるのかなぁ?」
「ありえる話だぜ。俺も昔あるステーションで幽霊の兄妹に…」
「ちょ、ちょっと、それホントの話!?」
「わりい、違った。俺達だけになる前、このジェイナスでたくさん
の人が死んだからなぁ…」
「やなこと言わないでよぉ!」
 はらへった…
「おいフレッド、今、何か声が聞こえなかったか?」
 くいたい…
「聞こえたけど聞こえない!」
「はぁ? 何言ってんだよ?」
「聞こえたけど聞こえない事にしようよ…!」
「聞こえちまったもんはしょうがねーだろ! しっかりしろよ!?」
「それはそうだけど…」
「いいか… 撃たれる前に撃て。宇宙で生き残るための鉄則だ!」
 いっぱしの教訓を口にするケンツだったが、足の震え具合が彼の
度胸の大きさを物語る。
 そのカラ元気も、怪しい部屋のドアを開けるまでだった。
 ケンツの懐中電灯が照らした先には、笑顔を見せる金髪の美女が
立っていたのである。
「ぎゃーっ!!」
「で、でたーっ!!」

「嘘じゃねーってば!」
「兄さん、僕もこの耳ではっきり聞いたんだから!」
 食事中に力説するケンツとフレッド、だが反応はよくない。
「夜中に出たって言うシャロンの話の方がまだリアリティがあって
面白いよ」
 冷めたマキの態度にケンツの気持ちが逆撫でされる。
「女の幽霊も見たんだぞ!」
「じゃあ案内しろよ。俺達が行って確かめてやるよ」
「ま、また行くのかよぉ?」
「俺達もついていってやるよ」
「そんじゃあいっちょ幽霊体験ツアーと行きますか!」
 何ともお気楽なバーツの提案に、ノって来ないものが約一名。
「い、嫌だ、僕は絶対に行かないよ! 絶対に行かないからーっ!」
 そう言うと、フレッドはプイと横向いて、
「おまえ、そこまで… 弟ながら情けないやつだなぁ」
というロディの嘆きも、
「ねぇ、メリー、どこ行ったか、知らない…?」
というジミーの問いも聞かずに、ひとり食堂を飛び出していった。

「んなもん持ってきてどうするんだ?」
 宇宙で4丁しかない銃を手に、ケンツがいきまく。
「オバケが出たらぶっぱなしてやるっ!!」
「幽霊だったら役に立たないんじゃない?」
「じゃあこの火炎棒! それでも駄目ならこっちのリモコンゲタ!!」
 などなど、くだらない世間話がちょうど終わる頃、
「ここだ…」
 ケンツの案内が終わった。目的の部屋の前に来たのだ。
「きゃっ!」
 部屋のドアを開けた瞬間、何かを見たのか、マキが叫んだ。
 その大声に、呆気に取られるバーツとロディだったが…
「ぎゃーっ!! でたーっ!! 僕にはまだ時間が欲しいんだーっ!!」
 意味不明の叫び声をあげて、ケンツは一目散に逃げ出した。
 逃げ出した一名を除いて、全員で部屋の中に入る。
「こんなことだろうと思ったぜ」
 薄暗い部屋の中に飾ってあったそれは、金髪女性の絵が描かれた
アニメのポスターだった。
「なぁんだ、青春の幻影か…」
「変な声っていうのは?」
「いや、聞こえねーな… 気のせいだって」
「誕生日イベントが発動してるかも知れないけど、放っておいても
大丈夫そうだな?」
「だな。転がってるものといえば… うえっ、食べかけリンゴだろ?
割と新しそうなコーヒーカップと、あとは『クレアドのおいしい水』
のペットボトルくらいのもんだ。これじゃあ俺達の部屋より綺麗な
くらいだぜ」
「あーあ、ちょっとは期待してたのにな。ま、いいけどさ」
 淡々と語る三人だった。

「ほらっ! 絶対に私の気のせいじゃなかったのよ!」
 とはいうものの、元々ペンチにとっては興味のない話。これ以上
続かないのも困ったものである。
 わざわざ言いに来なくてもいいのに…
 自分の部屋の前で幽霊の存在を力説するフレッドに、少々苛立ち
を覚えつつあるペンチだったが…
 あら? もしかして、こんなチャンスはそうないのかも!?
 何やら自分にとってプラスになりそうな考えがまとまったらしく、
開口一番恐ろしい提案をする。
「フレッド、夜になったら私の部屋に来てっ!」
「えーっ!」
 顔を赤らめる少年は、何やら言い訳を続けようとする。
「で、でも、シャロンが…」
 ところが、少女の方はその言い訳を言わせまいとする。
「シャロンはフレッド達の部屋に入れてあげればいいじゃない! 
オバケ騒ぎで眠れないんだったら、ケンツと遊んでればいいのよ。
ねっ!? ペンチからのオ・ネ・ガ・イ!!」
 男である以上断り切れないタイプのお願い事だが、幽霊と天秤に
かけると、かなり微妙な具合になるらしい。
「そうだ、こうしよう! もし変なことが起こったら、僕の部屋に
呼びに来て! ね? それでいいでしょ?」
 そんなの意味ないじゃない…
「えっ? 今、何か言った?」
「あーそう、よーくわかったわっ! そのときはゼヒお願いねっ!!」
 ふて腐れた態度で部屋のドアを閉めるペンチを、ただやるせない
思いで見送るしかできないフレッドだった。

 夜も更けた頃、ついに実行の時が来た。
「フレッド! 出たのよ、私のそばにいて!!」
 彼の部屋の前で、ペンチが呼べど叫べど反応は無し。
「フレッド、いい加減にしてよ! 私との約束を破るっていうの!?」
「何だようるせーなぁ! 眠れねーじゃんか!」
 中から顔を出したのはケンツだった。
 用事のない顔はすっ飛ばして、中を覗き込む。
「ねぇ、フレッドは?」
「聞こえねーのか? いびきかいて寝てるだろ?」
 なるほど耳を澄ませば聞こえてくるいびき。ケンツは起きている
から対象外。同室のジミーはといえばこちらを向いて寝ているが、
口を開けてはいない。
 そう、当の本人は幽霊騒ぎに疲れて寝入っていたのだ。
「オバケなんて嘘だったんだろ? ペンチもさっさと寝ろよな!」
 確かに、調査した結果をロディがクルー全員に周知徹底したこと
によるだったのだが、せっかくの大博打、引っ込みがつかない。
「でも、本当にオバケが出て…」
「声なんて全然聞こえねーだろ! 馬鹿じゃねーの!?」
 こちらはこちらで、昼間ロディ達に散々コケにされた鬱憤等を、
思い切りペンチにぶつけた格好である。武道を通じて分かち合った
頃は既に遠い思い出だった。
 彼女は歯を食いしばる。
 幽霊は嘘、ケンツに馬鹿扱いされて、挙げ句の果てにフレッドは
寝ている… そんな予想もしなかった事態に怒り心頭のペンチは、
少し怒った泣き顔で、部屋の中で眠り続けているフレッドに対して
ではなく何故かケンツだけを罵ってこの場を去った。
「まだ青いくせに…」

「ん? どうしたの、カチュア?」
「大事な物がなくなってしまって… そうだわ! マキさん、占い
で見つけてくれない?」
「いいよ、今なら格安料金出血大サービス!」
 マキが半ばヤケ気味にタロットカードを枕元から取り出した瞬間…
 苦しい…! 助けて…!
 二人の耳にはっきりと聞こえる女性の声。
 彼女達も、真夜中の自室でこの声を聞く事になってしまった。
 ちなみに、ペンチがフレッド達の部屋に行ってから1時間後の事
である。
「もしかして、これって?」
「ペンチが聞いたっていう声じゃない…?」
「こうしちゃいられない! カチュア、やるよ!」
「はい!」
 そう、結論は「幽霊なんていない」ということになっているのだ。
恐れるものは何も無い。
 とはいえ、どこかひっかかるのか、念入りに準備を進める二人。
 「トレーズ様LOVE」と意味不明の一文が書かれたハチマキを
思う存分自慢の額に巻き付けるカチュア。
 「平凡パ○チ」や「ジ・○ニメ」、「Beep! ○ガドライブ」
などなど、雑然と積まれている雑誌の山に腕を突っ込むマキ。
 奥底から出てきたのは、ベルウィック高野連認定済の金属バット、
何故か2本。
 部屋を出ると、いきなり通路左手、曲がり角にうっすらと浮かぶ
影を目の当たりにする。
 その影は、巨大な頭を持ち、足からはヘビのしっぽの様なものが
くねくねとくっついている。
 これって、もしかして…
 二人の脳裏に漢字2文字がちらついた瞬間、大きな物音がした。
 ドサッ!
 腹を抱えて大笑いしそうになる二人。どうやらその幽霊が何かの
拍子にコケたようだ。くっきりと影のジェスチャーでわかる。
 これチャンスとばかりに、マキとカチュアがそばまで駆け寄る。
この角の向こうに幽霊がいるのだ。自然と二人の緊張も高まる。
「逃げるのは無しだからね… せーのっ!」
 二人揃って目をつぶったまま飛び出すと…

  <<しばらくお待ちください>>(Byボギー)

「しとめたっ!! はぁ、はぁ、手ごたえありっ!!」
「でも、金属音? はぁ、はぁ、幽霊、なのに…!?」
 冷酷冷静なカチュアは正体を探るため、じっくり見つめる事にした。
マキも恐る恐る後に続いて足元を確認する。その間3秒。
「ちょ、ちょっと、何これ?」
 二人して同じように驚く。
 とはいうもののマキには見覚えがある。いや、そんなもんじゃない。
<<助けて! マキ! カチュア!!>>
 殴りつけたのはウェアパペット「トゥィンクルヘッド」だったのだ。
 しかも、足から出る奇妙な2本の吸気ダクト。よく見るとかなり
先の方で無理矢理ちぎれた後がある。
 こんな夜中にこんなことをしている人物といえばただひとり。
「なぁんだ、オバケの正体はクレアだったの」
「最初からこんなことだろうと思ってました」
 ホッとする二人。
 ところが、バイザーの中のクレアは非常に焦っていた。
<<これ、一人で出られないの! 助けて!!>>
 というわけで、マキとカチュアが5分かけてクレアを中から引き
ずり出した。
「まったく、夜中に一人でこっそりサウナだもんねぇ?」
 呆れ顔のマキに、一応反論するクレア。
「だって、今日食べ過ぎちゃったんだもの」
「自己管理が出来てないからそういう無茶をする羽目になるんです」
 カチュアのキツい一言に、クレアはより一層ムッとする。
「まあまあ。でもこれで幽霊騒ぎも解決だね?」
「なるほど、『はらへったーっ!』とか『くいたいーっ!』とか、
ダイエットのあまりの苦しみに思い余って叫んだクレアが正体…」
「えっ? 昨日はしてないわよ? ずっと一緒にいたじゃない?」
「違うの!?」
「それじゃあ、誰が?」
 と、その時…
『くいたいーっ!!』
「ギャーーーッ!!」

 翌朝、ブリッジは幽霊話で持ち切りだった。
「やっぱりいたんだよ! 兵隊さんがまだいた頃耳にしたんだけど、
あの部屋はずーっと昔罪人を監禁する施設があって、ある時無実の
罪で閉じ込められた少女がいて…」
「本当に?」
「ゲロッ! 前にちゃんと兵隊さんから聞いたであります!」
「ねぇ、みんな… メリー、どこ行ったか、知らない…?」
「知らねーよ、んなもん! それでよぉ…」
「ケンツのやつ、まだ言ってる… みんなもみんなだ。どこで聞いた
のか知らないけど、あんな噂を気にするなんて、どうかしてるよ」
 と、冷静を装うスコットだが、どこかソワソワしているようにも
みえる。
 そこへ、欲張って余った目玉焼きの取り合いをしていたため今頃
朝食を終えて現れるロディとバーツ。
「ちゃんと音の原因を調べた方がいいよ」
「本格的な調査と行きますかねぇ?」
 これ幸いとばかりに、年長組で勝手に話が進んで行く。
「ど、どうしても、やるの…? じゃ、じゃあ、その役目、ロディ
とバーツにやってもらおうかな? オバケなんて恐くないんだろう?」
「何震えてんだ、スコット? …ああ、別に何でもないさ」
「俺達にはね。フレッド、一緒に来いよ!」
「ぼ、僕も?」
「お前、このままでいいのか? ペンチにいいとこ見せるチャンス
じゃないか! お誘い無視して熟睡しててあの子が怒ってるって事、
みんな知ってるんだぞ?」

…というわけで「何でもない俺達」に無理矢理入れられてしまった
フレッド。
 なんでみんなそんなこと知ってるの!?
 やけに楽しそうな兄とその親友を恨まないはずはない。
 あまり手がかりもないため、とりあえず、方角を決めて突き進む
事にした。で、声が聞こえたという方へ、野を越え山越え里越えて、
やってきたのは天井裏。
「スコット、ここでいいのか?」

「ああ、まあ、その近辺なんじゃないかなぁ」
 こうやってブリッジでロディ達と連絡を取り合っていたスコット
だが、やけにそわそわと、うわの空的な話しぶりが続き、やがて…
「あっ、やっぱりお腹の調子が悪い… トイレに行ってくるから、
あとよろしく…」
 最大戦速でトイレに向かうキャップの姿、いつ見ても情けない。

 指揮官がクレアに変わってもやはり手がかりも無く、通路に出て
ウロウロしていると…
「あっ! あれは!?」
 ロディがT字路の壁に影を見つけた。
 主人公の出番! ここぞとばかりダッシュで追いかけ、T字路を
右へ曲がった瞬間、
「うわーっ!!」
 とてつもなく大きなロディの叫び声がした。
「どうした、ロディ?」
「兄さん!?」
 バーツとフレッドも彼同様に角を曲がると、すぐそばでロディが
しゃがみこんでいるではないか。
 何かに脅えた素振り、顔面蒼白、よほど恐ろしいものでも見たと
いうのだろうか?
 震えながらもかろうじて何かつぶやいている。

「迷わず成仏してください! そりゃ僕だってあなたに未練がない
と言ったら嘘になりますけど、今の僕はもうフリーなんですから! 
それにそっちにはあのおっさんだっているから、仲良くやればいい
でしょう? 僕はまだ青春真っ只中なんです! これからもコクが
あるのにキレがある主人公でいたいんです! お願いですからもう
僕の前には現れないでください…」

「お、おい、ロディ…」
 心配は心配だが、幽霊の正体を突き止める方が先だ、と走り出す
二人にタックルをかける主人公。
「バーツ! 行かないでくれっ! 俺を一人にするのか!!」
 いきなり相棒のズボンのすそに、涙ながらにしがみつくロディ。
やはり、頼りない弟よりはバーツを選んだようだ。
 その、勇猛果敢な主人公にあるまじき言動に、頭を抱えながらも…
 もしかしたら、弟思いのいい兄貴だから、フレッドに名誉挽回を
させようってことか? 案外大した事のない結果だとか…
 こんな風に察したバーツは、その続きを演じることにする。
「こりゃあどうしようもねえなぁ… フレッド、ちょっとこの先を
見てきてくれ!」
「えーっ!! そんな、僕…」
「ロディをこのままにしておけないだろう?」
「でも、僕だけでなんて出来ないよ…」
「やる前から諦めるな! 大丈夫、お前なら出来る! 兄貴の仇を
とってこい!」

 とはいえ、仲間を失い、ひとりだけとなった今、いきなり幽霊と
出くわしたらまず勝ち目はないだろう。そのことは誰よりも本人が
一番わかっていることだ。
 バーツ達が見えなくなった場所で、どうしようかと立ち止まって
しまうのも、彼にしてみれば当然といえば当然だった。
 そういう脅えた態度が幽霊を引き寄せてしまうのだろうか。
「えっ? あ、あの…」
 気がつけば、白い薄布をまとった金髪の美女が立っていた。
「坊や、見たわね…?」
 えっ?
 色気はあるが、どこか不自然な声のような気もする。
「も、もしかして、オバケ?」
「さぁ、どうかしら?」
 にっこり笑ってはいるが、振り向きざまの優雅な表情は影を潜め、
彼女は明らかに動揺している。
「あたしのこと、黙っておいてちょうだいね?」
 フレッドにまとわりつくように、すぅーっと近寄ってくる。
「あ、あの…」
「お・ね・が・い(はーと)」
 言うが早いか、幽霊がフレッドを抱き寄せてキスしたら…
 うそっ! この人…
 そう、抱きしめられたら誰もが気づくその事実。

 一瞬の出来事だった。
 まるで、失神させられたのか、記憶を消されたかのようだった。
 気がつけばもう「彼女」はいない。
 恐かった。確かに恐かった。
 だが、彼は一応? 幽霊を撃退することに成功したようだ。
 そして、幽霊は二度と現れる事はないだろう。
 何故なら、彼はある確信の元に大胆な仮説を打ち立てたからだ。
 そう、こんなことする人は、ジェイナスにはひとりしかいない…
「謎は全て解けたっ!!」
 幽霊が落としたであろう「モノ」を拾い、確信は絶対に変わった。

「ふぅ、すっきりした。おや? もう戻ってきてたのか? それで、
幽霊退治は出来たのか?」
「ええ、スコットさん。僕には全てお見通しなんですよ…」
「何が?」
「幽霊騒ぎの犯人は、この中にいるんですよ」
「だからもったいぶらずに教えろよ!」
 野次が飛ぶ中、フレッドはつかつかと我らががキャップの元へと
歩み寄り、怪訝そうな表情で一つ質問をした。
「スコットさん、あの癖、直ってなかったんですね?」
「は? あの癖って?」
「女装だよ女装! 黙ってろって言ってたけど、やっぱりきちんと
みんなに謝るべきだよ! こんな騒ぎになっちゃってるんだから!」
「ちょ、ちょっと待てよ、君、一体何を言ってるんだい…?」
 ここでいよいよ、彼は事の顛末と自分の推理を打ち明けた。
「まず、あの部屋で僕達が見たのは、たまたま女装済みのスコット
さんだったんだ。何か見つかるのが恐くて、慌ててアニメのポスター
を貼っておいて後で調べに来る人の目を欺いたんだ。そうまでして
自分の女装を、そしてそれにまつわる何かを隠したかったんだ」
「だよな! 俺ちゃんと見たって言っただろっ!?」
「ねぇケンツ、それって、どんなポスター? まさか…」
 自分の正当性を誇らしげに語るケンツに話を聞いて、現在の事件
に関係なく急いで例の部屋へと走り去るカチュア。
「な、なにかって、なにを、だよ、フレッド…?」
「あの部屋に『クレアドのおいしい水』のペットボトルがあった、
そうだよね、バーツさん?」
「ああ、間違いない。マグカップもな。このセットと言やぁ、もう
浮かんでくるのはただひとり…」
「ちょっと待て、どうしてフレッドがそのことを… バーツ、君、
バラしちゃったのか?」
「まぁな」
「でもって、さっき兄さんが通路でばったり出会ったのも、わざと
幽霊らしく見せるために、女装してシーツをかぶったスコットさん
だったんだ。きっと幽霊騒ぎに乗じて女装癖がバレるのを避けよう
としたんだ。すごく慌てた兄さんを見て”うまくいった”と思った。
そこに現れた僕には、もうどんな手も通じなかったんだけど」
「そ、そうだったのかっ! おい、スコット! 俺の大事な思い出、
よくも…!」
 ロディが怒りに任せて、涙まじりに叫ぶ。
「やめて、ロディ、人には人の趣味があるんだもの…」
 ペンチ妙に理解を示され、スコットは逆に動揺していた。
「フ、フレッド、何言ってるんだ? そんな、作り話、誰も…」
「いつもならみんなが困ってる事件に神経質なくらい気にするのに、
今回は全然関心を示さなかったのもおかしいと思ってたんだ…」
「そういえばそうね、さっきもお腹が痛いって、指示するのを放り
出してたって感じ」
 クレアがいぶかしげにキャプテンを睨む。
「ちょっと待ってよ! 本当にお腹が…」
「そう、お腹が痛いんだ。その決定的な証拠… さっき現場にコレ
が落ちてたんだ」
「なにこれ?」「下剤…」「げざいってなによ?」「それは、その…」
 出番の無かったジミー・マルロ・ルチーナが何やら話し合う。
「それはきっとダイエットのために使ったんだと思う。最近お腹が
痛いって言ってたのは下剤の飲みすぎだったんだ。で、これが元で、
女装癖がバレるのを恐れて、幽霊騒ぎに持って行こうと考えた…」
「じゃあ、シャロンの作ったサウナ使えばいいのに。危ないくらい
痩せるかもよ?」
 マキのジョークはクレアにとってはジョークではなかったりする。
「つまり、女装癖が直らないスコットさんは、みんなに隠れて趣味
を楽しんでいた。でも、最近少し太ってしまってお気に入りの服の
サイズが合わなくなってしまった。だからもっと痩せてお気に入り
の服を着たかったんだ。でも、ジョギングも辛いし、下剤も効果が
薄く、逆に空腹感が強くなっていった、そういう状態だったんだ…」
「じゃあ、オレが聞いたのはキャップの魂の叫び、かぁ?」
 シャロンが妙に納得してうなずく。
「つまり、シャロンの幽霊騒ぎから、夜の女装を見られたと思った
スコットさんは見られた姿を何とか幽霊にしてしまおうと、余計な
事を言ってボロを出さないように気をつけて、その裏で、時々思い
出してはダイエットに使っていた証拠品の隠滅をはかり、例の部屋
周辺に出没していたんだ。もちろん幽霊騒ぎに仕立てるためわざと
女装したり、シーツをかぶったりしてたんだ。もう言い逃れは出来
ないよ… 最近ダジャレも減って、おかしいとは思ってたんだ… 
そう、犯人は、おまえだっ!!」
 名探偵の掛け声で、一斉にスコットを見つめるクルー達。
「やめろ、やめてくれーっ! そんな目で僕を見るなーっ!!」
「まーったく、はためーわくな話だったなー。騒いで損したぜ」
 シャロンの一言で、この場が一気に乾いてしまった。
 そんな中、こんなほのぼのとした会話が交わされていたことを、
他のクルーは知らない。
「すごいわ、フレッド! ねぇ、今読んでる推理小説の犯人、誰か
わからないの! 興味ない?」
「あるある! それじゃあ一緒に考えようか!」
「わかったわ! 私の部屋に来て!」
「えっ…?」

「違う! 断じて違う! 僕は今日は女装なんかしてないんだ! 
 あ、いや、今日も、の間違いだ! と、とにかく、僕は幽霊事件
 とは無関係なんだ! …ど、どうしてみんな、そんなに白い目で
 僕を見るんだ! やめてくれ! みんなの視線が痛いんだっ!!
 …まてよ? それじゃあやっぱり、本物の幽霊ってことかっ!?」







<読者プレゼントのお知らせ>

 ふっ… どうしようもないな、このページも。
 おかげで、今回はキャスティングされていない俺まで出るはめに
なったか。それはそれで悪くはないがな。
 さて、本ダイジェストの読者にプレゼントがあるんだそうだ。
よかったじゃないか。
 ま、どうせかわはたのことだ。くだらない内容でお茶を濁すのが
オチだが… バイファムの「金色モデル」か。やはりくだらん。
 こんなものは不要だとは思うが、欲しいという偏狭な輩は住所・
氏名・年齢・職業・愛人の有無などを心に決めてから掲示板にでも
書いておけばいいらしい。
 なお、提供はアゾレック自動車工業(株)だそうだ。
 まったく、忙しい時にくだらん事に付き合わせおって…
 あ、らっしゃい! お客さん、いい部屋開いてますよぉ!

 (以上、ミューラァさんに案内してもらいました。
  …って、嘘ですよ、うそ。
  こんなプレゼントありませんからね? Byかわはた)