銀河漂流バイファム13
へなちょこストーリーダイジェスト
第16話


「あーあ、総集編やりたかったのになぁ… と、いつまでも後向き
 じゃいけない。僕達は両親の捕まっているというタウト星へ向け
 順調に航海を… はぁ、やっぱ後悔するよ。まさかあんなことに
 なるなんてなぁ。やっぱ体力つけなきゃいけないな。よぉし! 
 今から走るぞ!! ジェイナス内をジョギングだっ!!」

ジェイナス大洪水!?
お、溺れちゃうよー!

 ゴーン…
 静けさの中で響く鐘の音と張り詰めた寒さが彼の心を引き締める。
 ゴーン…
 一杯の煎茶と、おかきやみかんの入ったカゴが彼を心底喜ばせる。
 ゴーン…
 まさか、こんな時間に訪問客が来ようなどとは… 彼は心底驚く。

「ジミー、これは一体何だ!?」
 訪問客はTシャツにトレパン、まさにジョギングおやじスタイル
のスコットだった。
「あの、その…」
「何だって聞いてるんだ! ジミー、お願いだから答えてくれ!」
 彼が答えて欲しいのも当然と言える。何しろ、周回通路の景色が
随分と変わっているからだ。
「…じょ、除夜の、鐘」
「はぁ? な、なんでまたそんなものを?」
 言うと同時にスコットは、改めて周囲を見回す。
 立体映像は狭い一軒家の居間。
 家の中には白猫が一匹ウロウロ。ケイト毛糸玉に狙いを定める。
 ストーブの上のヤカンからは湯気。これで部屋の乾燥も大丈夫。
「ちょいと窓、開けようか?」
 換気をするために部屋に入ってきた、おかみさん。泣きボクロが
妙になまめかしい。
 開けた窓の外では、暗闇の中しんしんと降り積もる雪。
 ジミーはと言うと、炬燵に入って背中を丸め、軽く体を震わせる。
 眺める立体映像内のテレビでは、恒例の「ゆく年くる年」。
「おまえさん、ほら、お聞きよ、遠くに聞こえる、鐘の音…」
 ゴーン…
「いい音だねぇ。身も心も清められていくよ…」
 流し目込みで送られたその艶やかな台詞に、顔を赤らめるジミー。
 ふと思う。まさに、至福の時、と。
 年賀状も出したし、年越しそばも食べた。
 今年も一年、無事に終わるんだ、うん…
 来年が、よい年であり…
「あのねっ! 勝手にここの景色変えちゃだめじゃないか!」
 感慨にふけっていたジミーの世界に割って入るスコット。
 おかげで、ちょっとご機嫌斜めのジミー。それでも一応説明する。
「だ、だって、クレアが、『紅白』観たいって、言ったから…」
 『紅白歌合戦』と言えばトップアイドルが一堂に会するスーパー
エクセレントなジャパニーズイベントだ。彼女が観たいというのも
十分に頷ける話である。
「でも、クレアはさっきブリッジに当番に来てたぞ?」
「後半は、見ないで、行っちゃった、から…」
 まさに「紅白」を知り尽くしたクレアの言動だった。
「とにかく、今はこんな季節でもないだろう?」
「でも…」
「でも、何だい?」
 苛立ちが募るキャップに、ジミーは鋭い一言を投げかける。
「…寒くない?」
「ん? そういえば…」
と、言うが早いか、スコットは急に身震いした。
「またエアコンが壊れたのかなぁ? とにかく、元に戻しておいて
くれよ? いいね!? そしたら早く寝るんだ」
 そう言って、ジョギングおやじは走り去っていく。
 眠れないのに…
 仕方なく背景を元に戻して立ち去るジミーの背中は、どことなく
哀愁が漂っていた。

「ねえクレア、ちょっと困ってるんだけど」
 ブリッジ当番のクレアに声をかけたのはマキだった。
「どうしたの?」
「洗面所の水の出が悪いんだよね。もしかしたら水が少な過ぎて、
洗濯機が回らないかも…」
「わかった、あたしも一緒に行くわ。それじゃあボギー、ちょっと
席を外すからここをお願いね? 省エネ対策で電灯も消しておいて」
<<わかりました>>
 どんな時でもボギーは素直だ。
 非常灯以外の明かりをすべて落としたのである。
 僕が、いるのに…
 やるせない気分のまま、来た早々にトボトボとブリッジを出る、
なかなか寝付けないジミーだった。

「ふぅ、まいったな…」
 汗だくになりながら食堂に入ったスコットが耳にしたのは、思い
詰めたつぶやきだった。
「どうしたんだい?」
「ああ、スコットか。いや、ちょっとな」
 声の主は、エプロン姿のバーツである。
「ちょっと、って… 何やってるんだ、こんな夜中に?」
「明日の朝食の仕込みやってたんだが、水が出ないんだ」
「はぁ? 水が!?」
 水が出ないのも驚きだったが、どちらかと言うと「こんな時間に」
朝食の仕込みをやっている事実の方に、より驚きを覚えたスコット。
「ああ。出汁を取ろうと昆布を取り出したまでは良かったんだが…」
 な、何を作ろうとしてるんだ、バーツのやつ!?
 朝食の献立に首を傾げる彼を尻目に、仕込み担当が話を続けた。
「ただでさえ、薬剤やら何やらでゲロゲロな味の水なのにな。まあ、
出ねぇもんは出ねぇから『クレアドのおいしい水』使うしかねぇな?」
「な、何だってぇ!?」
 その途端、急に目の色変えてバーツにつっかかるスコット。
 明日の朝食メニューなど、あっという間に忘却の彼方である。
「貴重だってのはわかるけどしょうがねーだろ? 早めに水道管を
修理しなきゃな…」
「僕は許可しない! 許さないぞ! 絶対に駄目だっ!」
「お、おい、どうしたんだ、スコット!? 何も泣くこたぁ…」
「僕の唯一の楽しみを、誰にも邪魔させるもんか!! コーヒーを
いれるのにこれほど最適な水はないんだぞ! それを、他の料理に
使うなんて、まったく君って男は何を考えているんだっ!!」
 思わず目を大きく見開いたバーツ。
「お前だったのかっ! 最近やけに減りが早いと思ったら…」
 言葉をおし殺した後も、バーツの歯ぎしりがはっきりと聞こえる。
 ところが、
「し、しまった! クレアにも内緒だったのに!」
 そう言いながらも、その「クレアドのおいしい水」でコーヒーを
いれて呑むスコット。立ち寄った目的通りの行動には、さすが度胸
の座り方もキャプテン級、としか評する事が出来ない。

「うーん…」
 頭を痛めるマキ。
「困ったわね…」
 やっぱり頭を痛めるクレア。
 状況が悪化していたのである。
 洗濯機に全然水が入らなかった。それどころか蛇口をひねっても
まったく水が出てこない。
「ねぇ、クレア、何かいいアイデアない?」
「あればやってるわよ!」
「そりゃそうだけど、そういう言い方しなくても…」
「大体深夜になるまで洗濯物ほったらかしなんて、だらしないのも
程があるわ!」
「しょうがないじゃない、他の仕事で忙しかったんだから!」
 はぁ、と2人でため息。
「今日はお洗濯諦めるしかないわね。それ、いつかの格納庫にでも
放り込んでおいてね」
「いつかのって… あのパペット格納庫?」
 そう、ホルテにも散々けなされた「あの」パペット格納庫である。
「ちょ、ちょっと、ねぇ、クレア?」
「マキ、あなたあそこに行っても平気なんでしょ?」
 きつい一言だった。
「で、でも、この前はクレアだって…」
「あたしは駄目よ、あんなところ。この洗濯物だってずっとここに
おいておくことできないもの! 他にもっていくところがある?」

「ふぅ。と、とにかく、他言無用だぞ、バーツ。それじゃあ、もう
ひとっ走りするか!」
「あ、あぁ…」
 爽やかな笑顔を残して食堂を立ち去る男の背中を、複雑な気分で
見守りながらマグカップを片づけるバーツ。
 その堂々たる態度に、ただただ呆れるばかり。
 大体、ジョギング中にコーヒーをホットで飲むか、普通?
 ま、ちょっと涼しいくらいの空調だから、大丈夫なんだろうけど。

「ねぇ、マキ、どうしてあたしまで運ばなきゃいけないの?」
「だって数が多いんだもん、汚れたまま洗面所に置きっぱなしって
わけにもいかないでしょ? もう、何回同じ事言わせるの!?」
「でもあたし、絶対この格納庫に入るのだけは嫌よ! 絶対に嫌!!」
「そんなこと言ったって… とにかく開けるよ?」
 クレアの覚悟も決まらぬままマキがドアを開けた瞬間…
「なんだよおめーら?」
 まさかドアの向こうから声をかけられるとは。
 目をひんむく2人。
「ちょ、ちょっと、シャロン!」
「なんでアンタがこんなとこにいるの!?」
「ンクククッ! いーもん作ってたんだ。これなーんだっ!?」
 張り切ってシャロンが指差した、ガラスの向こう側にあるものは…
 誰が見てもウェアパペット「トゥインクルヘッド」である。
 ただ、踵からいかにも取ってつけた様な妙な管が2本出ている。
本当にそれだけの違いだ。
「そんなのわかるわけないでしょ!」
「フフン! サウナだよ、サ・ウ・ナ!」
 というわけで、早々に正解を発表するシャロン。
 よく見ると、踵から伸びた長い管は、これまた胡散臭そうな機械
に繋がっている。
 きっとあれが「サウナの素」なのだろう。
 どう贔屓目に見ても、怪しさ大爆発な代物である。
「こんなもん、この格納庫にあったかなぁ?」
「だから、たった今オレが作ったんだって! スゲーだろ!?」
 双子がいなくなって、どうも元気のなかったシャロンだったが、
何かを作ることによって、その虚ろな胸の内を少しでも埋めること
が出来ればと、日夜サウナ開発に明け暮れ… というパターンとは
全然違うような気がするが、ともかく何の脈絡もなく出来上がった
この簡易サウナ、いきなり完成と言われても2人は困ってしまう。
「入ってみるか? 出来は悪くねーよ!? 多分」
「多分って… なんか危なっかしいから、やめとく」
 マキが言うと、
「身体悪くしそうだし、あたしも遠慮しておくわ」
 クレアも付け加える。
「何だよ、オレの作ったサウナに入れねーってのか?」
「シャロン、あんた一度でも試した?」
「うんにゃ、まだ。大体こんなヤバイもんに誰が入るんだよ!?」
「…」
 自分で作っておいて随分な言い草だ。

 ところ変わって寝室。
「フレッド! フレッド! 起きろよ! 頼むからっ!!」
 ケンツの声に叩き起こされたフレッド。
 強引にベッドから引きずりだされた。
「なぁにぃ? どうしたのぉ? ふわぁ…」
「大変なんだ! 緊急事態なんだって!」
 寝ぼけ眼で寝室から引きずり出されたフレッドだったがケンツの
言う緊急事態に遭遇するや否や、あっという間に目が覚めた様子。
「ケンツ、こ、これって!?」
「な? 大変だろっ!?」
「ほんとに大変だ! 急いでペンチに知らせなきゃ!!」
「なんでだよ!? 他のやつらにも知らせなきゃまずいじゃねーか!?」

 格納庫には持ってきた洗濯物が山と積まれていた。
「なぁ、ちょっとでいいからさー! な?」
 やってられないわ、と、シャロンを無視してさっさとブリッジへ
帰ることに決めた二人の目の前に、不意に現れた男が一人。
「やぁみんな! そんなところで何楽しそうに話してるんだい!?」
 騒動のあるところ、常にスコットの姿あり。
 何を嬉しそうに走ってるのやら… 思っていてもマキの口からは
違う言葉がでた。
「シャロンがサウナ作ったんだって」
「また勝手にそんなもの作って… 爆発したりしないだろうね?」
 怪訝そうなスコットの顔を見て、にっこりクレア。
「ちょうどいいわ! ねぇ、スコット、ちょっと試してみない?」
 クレア、実は簡易サウナに興味があるのだろうか? それとも、
単にスコットをからかいたいだけなのだろうか?
 そんなことなどお構い無しに、ジョギングおやじがまくしたてる。
「駄目駄目! 今ジョギングの最中なんだから。そうだ! 君達も
そんなことしてないで僕と一緒に走らないか!? 結構ダイエット
にもなるしさぁ!」
 ピクッ!!
 この時のクレアの眉の動きを見逃したのは、話に夢中のスコット
だけだった。
「こうして夜走った後、シャワーを浴びてからベッドに入るとよく
眠れるし、体力増強に…」
「ちょっとちょっと、キャップ」
「どうしたんだい、マキ?」
「あの視線、気付かないの?」
「何が… うわっ!!」
 スコットはつくづく鈍感だった。巨大な憎しみのオーラにまみれ、
涙ながらに仁王立ちする一人の少女がそこにいることに気づかない
のだから。
「誰がデブよ誰が! あたしだってやることたくさんあって、それ
でいて最近アイドル系歌番組も少なくなって、おまけに『ただいま
放課後』を録画したビデオが無くなってるのよ! 仕方が無いから
ジミーにお願いしてさっき紅白観てたのよ!! 誰だってこんなに
ひどい目にあっていれば、もうお菓子を食べるしかないじゃない!?
それなのに、仕事から何から押し付けておいて、『お前はデブだ』
とか『ジョギングしろ』なんて本当に失礼よ! あたし絶対に遠慮
するわ!!」
「そ、そんな、僕は君のことをデブだなんて一言も…」
「ほーら、今言ったじゃないっ!! そう思ってるからつい本音が
出るんだわっ!!」
 ガキんこの喧嘩はこれだから…
 などと影でほくそ笑むマキも既に被害者になろうとしていた。
「いいわ! わかったわっ!! シャロン、そのサウナ、あたしが
試してあげるっ! ええ、ぜひ試させて欲しいものねっ!! 絶対
カチュアを抜いてみせるから! そうよ、あの子を抜けば何も問題
ないわよねっ!! マキもやるわよね! ねっ!!」
 狂乱状態のクレア、服を脱ぎはじめた時どうしてももう一言だけ
叫ぶ必要があった。
「スコットはあっちいってっ!!」
 そりゃそうだ。

「うーん、困ったなぁ…」
 悩むバーツ。明日の朝食、他に何かいいメニューはないか…と、
ライブラリールームへレシピあさりに向かう途中だった。
 そこへひょいっと現れるロディ。
「バーツ! やっと見つけたぞ!」
「なんだよロディ? 夜間巡回中じゃないのか?」
「今から素晴らしいことが起きそうなんだ! ついて来いよ!」
 言うが早いか猛然と走り出す爽やかロディ。
「は? ま、いいか。ちょっと考えが煮詰まってたとこだしな」

「あーあ、いい気分だわ! そうよね、マキ!?」
 二人はバスルームにいた。
「あ、うん、そうだね、いい気持ち、だね…」
 散々振り回されたマキ、あまり素直な感想を口にすることは出来
なかった。だが、サウナの後のシャワーというのは、とんでもなく
気持ちいいものであることは認めていた。
 ともかく、あの簡易サウナは爆発することはなかったようだ。
「…あれ? 今何か聞こえなかった?」
「そうね、大変だ、とか… こんな夜中に?」

「ほんとなんだな、ロディ?」
「ああ、バッチリなナイススポットを見つけてあるんだ!」
「隣の部屋からってのがいいんだなぁ!?」
「バーツもそう思うだろう? …ほら、バスルーム、きっちり使用
中だ」
「さすがはロディ、こーゆーとこだけ主人公クラスだな? んじゃ、
早速こっちの部屋から…」
「ロディ! バーツ! 大変だ! 緊急事態なんだぁ!!」
「な、何だ、お前ら!」
「兄さん、流れないんだよ!!」
「あ、あのバカッ…!!」
「フレッド、大声出すな!」

「ねえ、誰かいるの? 緊急事態!?」
「わっ!!」
 あまりにもタイミングよく叫ぶロディとバーツ。
 バスルームのドアからマキの「顔」だけが出てきたのである。
「ちょ、ちょっと、アンタ達…」
 しどろもどろの青少年達に疑いの眼差しが向かないはずがない。
「まさか覗いてたんじゃないでしょうね!?」
「そ、そんなわけねーよ。なぁ、ロディ?」
 バスルームの隣の部屋に入る前で助かったぜ、と胸をなで下ろす
バーツの脇で、恐ろしい言い訳が飛び交った。
「僕達は偶然この前を通りかかっただけなんだ! 信じてくれ! 
決して君達がシャロンの開発した危なっかしい簡易サウナから出て
きて冷たいシャワーを浴びるところを覗こうとしたわけじゃない! 
あくまで偶然なんだ! 絶対に! 『カチュアを抜いてみせるわ!』
なんて聞いてないんだっ!!」
 何だかわからねーが、フォローできねーよ、それじゃあ!
 そうツッコミを入れたくなるのを抑え、とりあえず、
「とにかく… ほれ、お前らあっちいったいった!!」
と、その場をごまかすためフレッドとケンツを追い払うが、
「バーツ、アンタも!!」
 そりゃそうだ。

 まったく…
 マキがバスルームに戻ると、尋常ならぬクレアの叫び声。
「シャワーから水がどんどん出てきてるわ!」
 そう、悲劇はここから始まった。
「えっ? 何? どういうこと!?」
 状況を把握しようとあたりを見まわすマキ。思わずクレアと視線
が合う。
「うふっ(はーと)」
 ニッコリごまかすクレアの笑顔をよそに、マキの視線は彼女の手
の方に釘付けになった。
「ちょっと、何握ってるのよ?」
「シャワーの水栓」
「つければいいじゃない!」
 慌てて元の位置にあてがってみても…
「くっつかない… どういうこと?」
「うふっ(はーとx2)」
「…アンタ、無理矢理こじ開けたんだね?」
 自然と視線を逸らすクレア。
「だって、急にシャワーが出なくなったから、つい… そうだわ! 
誰か近くにいないかしら?」
「そうはいっても、さっきバーツとロディは追い返しちゃったし…」
「あ、あのぉ…」
 申し訳なさそうに更衣室に入ってきたのは先程の青少年達。
「ちょ、ちょっと! アンタ達!」
「まだいたの!? どうして!?」
「ま、待て、言いたいことはよくわかる!!」
「だが、あれからの度重なる協議の結果、もう少しだけ成り行きを
見守る必要があるのではないかと…」
 この期におよんで非常にややこしい発言をするロディ。
「ロディ! なんでお前はそうフォローできないいいわけばっかり
するんだ! とにかく、非常事態なんだろ!?」
 何故か事情を知っているバーツ。
「そ、そうだった、とにかく見てよ!」
 状況が状況だけに疑いもなくバスルームへ連れ込もうとするマキ。
「いやーっ! 二人ともこっちに来ないでっ!!」
 誰よりも大声で叫ぶクレア。
 そりゃそうだ。
 だが、このクレアの行動が第二の悲劇を呼ぶ。
「やだっ! 閉まっちゃった! 開かないよ、これ!!」
 クレアが勢い良く閉めたシャワー室のドア、まさかこの程度の力
でロックが故障するとは誰も思わなかった。
 いや、マキにはわかっていたはずだった。
 だからこそ、バーツの手をひいた自分の手をすかさず離したのだ。
その瞬時の判断で、バーツ共々腕を挟まれずに済んだのである。
「まずいな… みんなを呼んでくる!」
 それこそ気まずくなったため主人公らしく更衣室を出ようと走り
出すロディの目の前に、
「みんなどうかしたの? あ、あなた達、一体何を… みんな来て!!」
 やけに不自然なカチュアの言動に続き、
「ねぇ、どうしてこんなとこにいるの? あさごはんまだ?」
「ぼくもおなかすいたよぉ! あさごはんでよんだんじゃないの?」
「ケンツ! また君かっ!? もういい加減にしてくれよ! 一体
何度言ったら…」
「違うっての! でもさ、あれ、俺達の役だったんじゃねーのか? 
確か台本に… ほら!」
「いーじゃん、楽できるんだからさ、ンクククッ!!」
「ありがとう! 助かったわ! もう少しで恥ずかしい思いをする
ところだったんだもの」
「ね、さっきは危なかったでしょ? しばらく気をつけなきゃね! 
…兄さん、そ、そんなところで何やってんの!?」
 何故か騒動には敏感なクルーが都合よくぞろぞろと勢揃い。
 そのところどころから、ロディ達を非難する声。
 そりゃそうだ。
 彼らが目にしたものは、腰まで水に浸かっていたクレアとマキ、
ついでにロディとバーツ。
 でもって、そのお嬢様方のお姿はというと…
 そう、すご〜く恥ずかしくて他人様には到底お見せ出来ない格好…
バスタオル一枚ポッキリだったりするのである。
 まるでロディとバーツが二人を閉じ込めたようにも見えるから、
さあ大変。思わずカチュアと目を合わせるロディ。
「違うんだ! 俺はただこの場で…」
 という、恐らくさらに事態を悪化させかねない言い訳をバーツが
慌てて止めた時、怒号がバスルームとその更衣室に響き渡る。
「マキ! こうなったのもあなたのせいよ! あなたがダイエット
しろっていうから! あたしは別に必要なかったのよ!!」
 恥ずかしさが余って突如苛立ちを大爆発させたクレアの事実無根
な指摘に、ついに堪忍袋の緒が切れるマキ。
「言ってないって! それに自分の体型を棚に上げてよく言うよ!」
「まぁ、何ですって? あたしの美しい顔についてこれないだけで、
これでもかなりのプロポーションなのよ!?」
「へぇ! その足がねぇ! アタイにゃ信じられないなぁ!」
「まぁ! これ見よがしに生足出してりゃいいってもんじゃないわ!! 
大体部屋の中でも帽子をかぶり続けるなんて非常識なこと『あの』
ジミーでもしないのよ!? 顔に自信がないって素直に認めたら!?」
「よく言うよ! 潔癖症のブリっ子が! レッグウォーマーなんて
時代遅れもいいとこじゃないの!? タイツも単に冷え性対策なら、
そろそろ股引か腹巻きにでも変えたらどう!?」
 がっぷり四つに構える二人、もはや押しも引きもならぬ状態。
「こ、怖ぇ…」
「さわらぬ神に何とやら」
 などなど、ブルブル震えるだけの男連中と違い、
「やめて二人とも! このままじゃ溺れてしまうわ! だから今は
言い争ってる場合じゃ…」
と、颯爽と止めに入るカチュア、やはり目立ちたがり優等生である。
 ところが、そろそろ水に身体が浮かびはじめても、2人の毒舌は
収まりそうにない。それどころか…
「カチュアは黙ってて! ちょっと足が細いからって、それだけで
オトコがみんななびくわけじゃないのよ!?」
「そうだよ! ククトニアンだからって、そのおでこが許されると
思ってんの!? はっきり言って罪だよそれ!!」
 この瞬間、不幸にも、対岸の火事では済まなくなった少女が一人
増えた。
「待て、カチュア、早まるな!!」
「離してください! あの人達に言っておかなければいけない事が!」
 巨大ハンマーで今にも襲い掛かろうとするカチュアを慌てて抑え
込むスコット達を尻目に、色々と話し込むロディとバーツ。

「どうするバーツ? 眺めは悪くないけどこのままだと…」
「しゃーねーか。ロディ、あの穴大きくしてパイプを通すぞ。その
パイプから水を吸い上げて…」
「ちょっと待てバーツ! あの穴の存在をバラすのか!?」
「仕方ないだろう?」
「しかし…」
「ほれ、台本見てみろよ?」
「そうか! よし、助けてみせる、絶対に!!」

 手際良く穴を開け、無事第三格納庫の仮設プールに水を溜め込む
ことに成功したロディ達。 「ふぅん、あんなところに穴があったのね…」
「それでアタイ達を覗こうとしてたわけ?」
 全く持ってそのとおり、反論出来ないわけだが、何故かそれほど
残念がっていない二人。

「何てったって、台本だとこれから水遊び、だもんな?」
「そーそー! このプール使って… ふふふっ!!」

 ところが、事はそううまく運ばない。
「ううっ、寒い… これじゃプール代わりなんて無理だな」
 スコットの無情な一言に、どこからともなくやってきたジミーが、
慌てて意見を付け加えた。
「寒稽古は…?」
「それいいわね!」
「ロディ! バーツ! アンタ達それでさっきの事反省しな!」
 あのオトコオンナ〜っ!!
 ちゃんとエアコン修理しとけよ!!
 悔しさを噛み締める二人。だが、何故か指名はもう一人。
「スコット、わかってるでしょ? あなたにも罰を受けてもらうわ!」
 というわけで、何故かケンツの学んだ「ククト極限流空手」と、
ペンチが習得している「クレアド柔術」の稽古に励むこととなった
三人。

 10分後。
「バーツ、僕、お腹が痛くなってきた…」
「俺もだ… おい、ちょっとタンマ!」
「あ、そうだ! 駄目だよ兄さん!!」
「フレッド、何が駄目なんだ?」
「トイレを使っちゃ駄目なんだ!!」
「そーそー、すっかり忘れてた! 流れないんだよ! さっき俺が
行った時にそのことに気づいて、それでみんなに知らせようって…」

 こうして、ジェイナスの夜は明けていく。

「さ、寒い、寒いよぉ〜っ!! 大体、これって何の罰なんだ!?
 僕にはさっぱり見当がつかない! それに、確かにジョギングを
 始めたけど、身体を鍛えるといってもこれじゃ身体が持たないぞ!
 ほんと、風邪でもひいたらどうするんだ!? またみんなの笑い
 者になってしまうじゃないか!! いや、それよりもお腹が…」