銀河漂流バイファム13
へなちょこストーリーダイジェスト
第14話
「おばちゃんたちだいっきらいっ!!」
ぼくらの選択
タウト星をめざせ!
いきなりのルチーナ大激怒。
ご覧の通り? 今ジェイナスでは大問題が発生していた。
「ごめんなさい! 決してそんなつもりじゃなかったの! それに
これはみんなルービンがやったことなのよ!」
ホルテが叫ぶ。
「確かに、私が洗い過ぎたのが悪かったの! でも元々洗わなきゃ
いけないようにしたのはアン=ホルテの方なのよ!」
ルービンも叫ぶ。
互いに確かにその通りなだけに、責任のなすりあいは虚しさだけ
が募る。
ホルテが胸元で握りしめる白茶まだら模様のくまのぬいぐるみが、
さらに哀愁を誘っていたりもする。
「ルチーナぁ、でておいでよぉ!」
心配そうにマルロが問い掛ける。
ここはマルロとルチーナの愛の巣… もとい、子ども部屋。
立てこもる事3時間。ルチーナも結構ネに持つタイプのようだ。
「あら、どうしたの?」
ふらりと通りかかったペンチに、ホルテが事情を説明する。
「このぬいぐるみがこんなになっちゃったから、怒ったルチーナが
部屋から出てこないのよ!」
「ああ、このぬいぐるみね?」
ポンポンと頭を撫でるペンチ。
そうだわ! この子なら私達を理解して、きっとルチーナを元気
づけてくれるに違いないわ!
ホルテのナイスアイディアは、一瞬にしてもろくも崩れ去る。
「ひどい事をするわよねぇ! ルチーナがあんなに大切にしていた
ぬいぐるみを色落ちさせるなんて! しかもぐっちゃぐちゃに!」
ペンチの露骨な台詞は二人には相当きつかった。
「あのね、私は…」
ルービンが必死に弁解するも、
「えっ!? あなた、事実を認めようとはしないの?」
と返されては、ぐうの音も出ない。
さすが、数々の修羅場をくぐり抜けてきただけのことはある。
「ルチーナが嘆いて当然だわ!」
そういうとプイッとそっぽを向き、マルロの頭を撫でる。
「あなたもおもちゃ壊されたりしないようにね?」
そそくさと去っていく悪女を見つめ、ホルテの苛立ちもひとしお、
本音も頭を駆け巡ろうというものだ。
まったく… 何よ、難民の分際で!
確かに悪かったと思っているわ。でも、私達にも今はやることが…
そうだわ!
突然、この場を打開するろくでもない名案を思いついたようだ。
そうよ! 全部一緒にやってしまえばいいのよ!
中の少女に聞こえるよう、大声を張り上げるホルテ。
「ねえ、ルチーナ! 私達の母船がそこまで来ているのよ!」
「…」
反応がない。
ぬいぐるみと宇宙船、おチビさんの頭でも何の関係もないことは
容易に考えうることだ。ルチーナからの反応がないのも当然である。
ところが、自信たっぷりにホルテが続けた。
「くまのぬいぐるみがあるかどうか、調べてみるわ!」
「…どういうこと?」
「母船にはね、ぬいぐるみ… ううん、それだけじゃなくてもっと
たくさんのおもちゃがあるのよ! 嘘じゃないわ!」
「ほんと!? あたし、こんどはしろくまさんがいいなぁ!」
慌てて部屋から飛び出したルチーナ。まったく現金なものだ。
「ぼくは超合金! ジェットスクランダーがついたやつ!!」
さりげなく自分の要求も通すマルロ、何と抜け目ないことか。
とにかくブリッジに戻る二人。
「さっぱわかんねーな? 何かまずいことを話し合ってんじゃねぇ
だろうな?」
「ああ、全くはた迷惑だよ。通信内容がわからないんだからな」
バーツやロディの言う通りである。本当にその通りである。
ホルテとルービンはラピスの母船「キエフ」号の通信担当と会話
していた。
「あら、あなた、新入りさんね?」
余程接触した状態なのだろう。映像もはっきりと映し出せている。
<<はい。よろしくお願いします!>>
「ドキッ! …ちょっと君、結構カッコイイんじゃない!?」
<<そ、そうですか?>>
「照れることないわよ。うん、イケる顔だわ! ところであなた、
彼女はいるの?」
<<そんな、いませんよ。今は仕事に精一杯頑張るだけですから>>
「ふぅん、で、ジョークは好き?」
<<もちろんです!>>
「そう! 私達、気が合うみたいね!? で、そちらから何か報告
事項はないの?」
<<赤ちゃん達、無事に親の元に戻ったそうです。ただ…>>
「ただ… どうしたの?」
ホルテの問いに、言いにくそうにラピスのメンバーが答える。
<<ルルド艦長、相当頭に来ていたみたいです>>
そりゃそうだ。
赤ちゃんを宇宙空間に放り出したあげく一目散に逃げたのだから。
全くもって無責任甚だしい。
「いいわ、とりあえずそのことは黙っておきます。じゃあ、後でね」
そう言って通信を切った彼女の判断は賢明だった。
「赤ちゃん、無事親御さんの元に届いたそうよ! さぁて、忙しく
なるわ! スコット、一緒に来てちょうだい!!」
何が忙しくなるのか良くわからないスコットだったが、ホルテの
頼みとあらば、たとえ火の中水の中…
「ぼ、母船に行くんですね? 喜んで!」
ふと、ロディとバーツの視線に気付く。
「こ、コホン。これはだなぁ、キャプテンとして、その、タウトの
情報を手に入れるためにだなぁ…」
ロディとバーツの視線の強さは一向に変わらなかった。
「な、何だ!? 僕のことが信じられないのか!?」
その異様な雰囲気を察して、ホルテがさりげなく割って入る。
「何なら、あなた達も来る?」
「俺達はやめとくよ」
「んなとこ行ってる暇ねーしな」
険悪なムードたっぷりなこの場を楽しんでいるのが、今のホルテ
だったりする。
うふふっ! これで事は全て私の思い通りに運んでいるわ!
ところが…
「あの、私も行っていいですか!?」
突然クレアも名乗りをあげた。
ホルテさん、何か企んでる… クレアはこの場で察知したのだ。
「…ま、まあ、いいけど」
チッ! せっかく二人きりになれるところだったのに!
素直に指を鳴らすお茶目なホルテを見て、してやったりのクレア
だったりする。
育児などに使っていた部屋は、今はひっそりとしていた。
真っ暗な部屋に、それでも何かが動く気配がある。
「あら、どうしたの?」
ふらりと通りかかったペンチ。中を覗いてみた。
「な〜んかようかぁ〜…」
生気の無い声が返ってきた。
声でわかる。シャロンだった。
椅子に反対向きに座り、ドタバタの最中に作ったお手製乳母車の
ハンドルを握ってブラブラ動かしている。
「どうしたの? こんなところに一人で?」
「なんかさぁ、赤ちゃん返しちまったろ? 急に気が抜けちまって…」
自分で突然思い立っておいて… と思われがちだが、実際は直接
手渡しで返せたわけではない。その情けない事実が無気力を誘う。
「あ〜あ、ヒマな人ってこれだからやーね?」
珍しいシャロンの落胆ぶりにも、聞く耳持たないペンチ。
「ジェイナスの中は大変なのよ! やることいっぱいあるんだから!!」
「そりゃそーかもしれねーけど…」
「えーえー、いつまでもウジウジしてればいいわよ!」
だって、あなたの出番が減るだけなんだから!
そこまで計算して放つ台詞に、苛立ちを覚えないはずがない。
「わーったよ、仕事すりゃいーんだろ、仕事すりゃーよっ!!」
怒って出て行くシャロン。
すっかり腑抜けね? これは心配ないわ…
うんうん、と自分の判断に頷くペンチだった。
キエフ号のブリッジ。
入るなり、ホルテの開口一番…
「新人をスカウトしてきたわ!」
「ちょ、ちょっと、ホルテさん…?」
「冗談よ、じょうだん!」
一本取られたスコット。
そうか! このタイミングなんだ!!
いやぁ、勉強になるなぁ!!
相変わらずメモ用モバイルギアに細々と書き綴る。
そんな彼とキョロキョロするだけのクレアをよそに、テキパキと
ホルテが指示を出す。
「まず、くまのぬいぐるみが在庫にあるかどうか、大至急確認して
ちょうだい!! いい!? これはトッププライオリティよ!!」
「あ、あの…」
メモを書き留め終えたスコットは、いきなりの彼女の指示に仰天
する。
「白いのがいいって言ってたわね? 色は白か茶色指定ね」
「ねえ、ホルテさん…?」
「あと、ライブの準備も急いでしなきゃいけないわね!」
「ちょっと、僕の話も聞いてもらえます?」
あまりに心配そうなスコットの顔を見て、はたと手を止める。
「えっ? まだ何かあったかしら… そうそう! タウトの情報も
必要だったわね… そうねぇ、プライオリティは低くていいわ」
浮かれ気分のホルテの影で、ルービンがこっそりと同僚に尋ねる。
「ねぇ、あそこ、使える?」
「な? やっぱ目玉焼きにはソースなんだって!」
「うん… で、でも、僕、やっぱり、お醤油の方が…」
他愛ない会話で歩くケンツとジミー。
「あら? どうしたの、ケンツ?」
ふらりと通りかかったペンチが一声かける。
この時点では別にどうもしないのだが…
無言になるケンツ。そう、急にどうかしてしまったのだ。
「黙ってちゃわからないわ!? ま、いいけど。お仕事サボっちゃ
駄目よ!?」
ジミーにはわかる。ケンツの行動の意味が。
ペンチと出会うと、自然と目を伏せるようになってしまうことを。
悔しさで拳をきつくきつく握り締めていることを。
「青い」友情で結ばれた彼が今、未曾有の苦難に立ち向かう勇気
を持つべきか持たざるべきかで、まだ幼い心を痛めていることを。
ケンツ、負けちゃ駄目だ…
なにもしてあげられないけど…
結局落ち込むケンツをよそに、そそくさとメリーの世話に向かう
ジミーだったりする。
ジェイナスのブリッジに通信が入った。
面倒臭そうに回線を繋ぐロディの目に能天気な我らがキャップの、
モニター越しの目いっぱいの笑顔が飛び込んできた。
<<ジャーン!! ホルテさんが、僕達をこのキエフ号に招待して
くれるってさっ!! だから早くこっちにおいでよ!!!>>
やけに張り切るスコットに胡散臭さを感じ取るロディとバーツ。
「行かないぜ」
「俺もだ」
あっさりキャプテンの提案を却下する。
<<な、なんでぇ? どうしてぇ!?>>
「自分の胸に聞いてみろって、何度言ったらわかるんだ!」
<<まだあの事で怒ってるんだな? でもそれはロディだって…>>
「こいつとは拳でわかりあった。だが、お前とはわかりあう手段が
ないんだぜ? ジョークはくだらねぇし、殴り合いはやらねぇし、
将棋まで弱いときたら…」
<<…ロ、ロディは考え直してくれるよね? ねっ!?>>
「いや、俺もジェイナスに残る」
<<ロディ!>>
「スコット、君がそんなに嬉しそうだというのは、きっとジョーク
がらみでいいことがあるはずだ。それ以外考えられない!」
<<す、鋭い! 実は、「ジョークライブinキエフ号」という、
素晴らしい企画がホルテさんの手で実現されそうなんだっ!!>>
「やっぱりな。俺は君のジョークを認めていないし、聞きに行く程
暇でもない」
<<…と、とにかくみんなに伝えておいてくれよ!?>>
てなわけで、ルービンさんがジェイナスに戻ってきた事もあり、
仕方なくこの件を一同に話すロディ。
どうやら残るのはロディとバーツ、メリーの世話をするジミー、
「仕事するっつってんだろ!?」一点張りのシャロン、そして…
「ばかばかしい、キャップのジョークなんて誰が聞きに行くかよぉ…」
と、話に乗ってこないケンツ。
ところが、ルービンがけしかけることで考えは一変する。
「ねぇ、ケンツ、あの子ともう一度勝負したくない?」
「えっ?」
「私が、特訓してあげようか?」
突然の申し出に、当然の様に驚くケンツ。
「ルービンさんが…?」
「これでもククト極限流空手の師範代なのよ?」
確かに、言われてみればなんとなく強そうである。
皆様ご存知の通り、ルルドをカカトオトシで地に伏した実力は、
並大抵のものではないと容易に推測出来る。
それを知らないケンツなのだが、既に心は決まっていた。
「お願いしますっ!!」
「そう、じゃあキエフ号に来て。あっちに道場があるから」
ふふっ! やったわ! なんて賢いの、私!!
先程散々ペンチに虐げられたルービン。
少女への復讐を、ケンツを使って行なおうというのだ。
本当の実力者は自分の手の内は見せないものよ?
オホホホ!! と、不気味&声高に笑うルービンを見て…
よぉし、見てろよ!? 絶対強くなってやるからな!!
ケンツはより一層自信を深めたせいか景気よく師匠に声をかけた。
「よろしく頼むぜ、じっちゃん!」
瞬時にカカトオトシ炸裂。口は災いの元。
キエフ号に来た一同は、到着の瞬間に方々に散った。
それぞれ目的が違うのだ。
女性士官室らしき部屋。
「ねえ、こっちこっち!」
クレアに呼ばれて走り寄るペンチ。
「どうしたの、クレア?」
「ほら、これきっとククトのアイドル生写真よ!」
この人、またこんなこと言って…
呆れ返るペンチ。
大体、元はといえばスコットの事が気になってついてきただけの
クレア。予定外のジョークライブなどには、さらさら用はない。
「…そうかしら? 私、恋人の写真の様にも思えるけど」
というペンチの適当な相槌に気付かないほどの集中ぶり。
「あ、見て見て! その写真、この人よね?」
LPレコードのジャケットを手に息の荒いクレア。
「そ、そうみたいね…」
「これって、アルバムみたいだけど… どうやって聞くのかしら?」
CD文化の彼女達には、「レコード盤に針を落とす」こと自体が
信じられないらしい。
「うーん、諦めきれないわ… せめてどこかにCDが無いかしら?」
ククト極限流空手・ラピス支部、キエフ号道場。
そこに立つのは胴着に着替えたルービンとケンツ。
今のケンツにはルービンの黒帯が眩しい。
「さぁ、特訓よ!」
「おうっ!」
大きな倉庫のような部屋。
「わぁっ!」
「ひろーいっ!!」
「後楽園球場何個分かなぁ?」
マルロとルチーナ、オマケでついてきた引率役のマキまで驚いた。
「ここはね、おもちゃセンター『といざます』っていうのよ?」
ホルテからのご丁寧、というよりは少々営業の入った説明。
ダッシュでぬいぐるみコーナーへ駆け寄るルチーナ。
ジャンプ一番、うさぎやくまのぬいぐるみの中へダイビング。
マルロはマルロで、警備隊変身セットやセーラー戦士変身セット、
亀怪獣変身セット、ガッシュ変身セット等に首ったけ。
「へぇ、各種ゲームソフトも揃ってるんだ! 『たけしの挑戦状』
置いてないかなぁ? 探してんだよね、あれ」
マキがこれほどはしゃぐのも珍しいが、毎日スーパーマリオだけ
しかやっていないのだから当然といえば当然。
しばし、両親探しの苦難の旅を忘れて、本来の年頃の少年少女の
素顔に戻ったのも束の間…
「好きなの買っていいわよぉ!?」
えっ?
ピタリ… 皆の動きが止まった。
いきなり現実に引き戻されたのである。
「おばちゃん、『タダ』じゃないの?」
「当たり前です! えっと、1ククト円が13香港ドルだから…」
「…」
夢もへったくれもあったもんじゃない。
「あら? あなた達、ククト円持ってないの? じゃあいいバイト
紹介してあげるわ!」
「それって、要するにサーカスの事じゃないの?」
「あ、そろそろスコットのジョークライブが始まる頃だわ! ねえ、
あなた達もどう?」
「遠慮しとく…」
マキはそれだけを口にするので精一杯だった。
「まだまだ! 踏み込みが足りない!!」
「ちょ、ちょっと休憩…」
「そんな暇があるの!? 軍曹、今ここで投げたら、一生あの娘の
前で顔をあげることが出来なくなるわ! それでもいいのっ!?」
「…もういっちょうっ!!」
「そう、その意気よ!」
ビデオライブラリールーム。
当然? ここにはカチュアがいた。
黙々とビデオをチェックする。とはいえ、ミミズククト文字など
読めるはずもなく、一本一本丹念にビデオデッキに入れては出して
チェックチェックの連続。なんてまめな性格なのだろう。
コツッ…
「誰っ!?」
神経を研ぎ澄ませていたからこそわかる人の気配に、振り向いた
カチュア。そこには…
「しーっ! あたしもアイドルビデオ探しにきたのよ」
クレアだった。類は友を呼ぶ。
「私に何の用?」
道場に呼び出されたペンチの目の前には空手の胴衣を着たケンツ
がいた。
「そう、そういうことなの。いいわっ! 格の違いを思い知らせて
あげるから!!」
「この前の俺とは違うんだっ!!」
ケンツとペンチがいきなり組み合う。
「はじめ!」
ルービンの合図は既に遅いものとなっていた。
<<ジャジャーン! れでぃすあ〜んどじぇんとるめんたつ!>>
「な、何だ?」
ブリッジで将棋をしていたバーツが慌てて立ち上がる。
「うげっ! バーツ、あれを見ろ!」
といいつつ盤面のバーツの側から飛車をこっそりと取るロディ。
<<スコット=ヘイワードジョークライブへようこそ!>>
モニターに映っているのは、真っ赤な蝶ネクタイに真っ赤な上着、
白いスラックスのスコット=ヘイワードその人だった。
「あの野郎、俺達に対する嫌がらせかっ!?」
「かもな。ボギー、何とかしてくれ?」
<<駄目です。本通信は、艦長命令でトッププライオリティに指定
されています。艦長の許可無しに無断での回線切断は出来ません>>
「勘弁してくれよ…」
ブリッジを離れるわけにはいかないロディとバーツ。
そう、メリーと戯れるジミー、フラフラどこかへ行ってしまった
シャロン、夕食担当フレッド、そして彼らだけがジェイナス居残り
組なのだから。
「やっぱ強ぇよ、ペンチ…」
落胆するケンツに、好敵手が歩み寄る。
「ううん、そんなことない。やるわね、ケンツ。見直したわ!」
「ペ、ペンチ…!?」
「根性あるじゃない!」
ガッチリと握手する二人の胸の奥には、言い表せない程大きくて
熱い友情が生まれていた。試合後の清々しさに酔いしれる。
いつの間にか、ルービンも胸を熱くしていた。
やはり武道は素晴らしい、そう実感する三人だった。
「そろそろ帰りましょうか」
姐御クレアの一声で、ルービンの小型艇で帰ってきた一同。
みんな苦しそうに乗っていた。何しろマルロとルチーナのおもちゃ
で一杯なのだ。
スコットは声がかれるまでライブを続けて他の難民に大ウケした。
ペンチとケンツは武道を極めた者同士の固い友情で結ばれ、マキは
お目当てのものはなかったものの、タロットカードを購入… と、
みんな結構御満悦… でもない。
カチュアには戦利品はなかった。
まさかHi8を使ってるなんて… ビデオテープの規格が自分の
使っているS−VHSデッキと違っていたのが敗因だった。
クレアの方も「たくさん持ってかえったらルービンさんにバレて
しまう」と、アイドル生写真数十枚を入手したのみである。
みんながブリッジに引き上げた後、格納庫で帰る準備をしていた
ルービンに、ひとり残ったケンツが話し掛ける。
「行っちゃうの?」
「ええ。あなた達と関わっているとロクな事がないっていうお上の
お達しでね。キエフ号自体が左遷されたようなものよ。それに収容
している難民の中に不穏な動きがあるの。このジェイナスを奪って
キエフ号から逃げ出そうとしているらしいわ… みんなに伝えてね?」
「はい、確かに伝えるであります! …あの、ルービンさん?」
「なぁに、軍曹?」
「その、あの、俺、なんてお礼を言ったらいいか…」
その時彼女は準備の手を止め、何を思ったか黒帯を外す。
当然胴衣がはだけた。
ドキッ! とするケンツに、ルービンはそっとプレゼントを差し
出した。
「あげるわ。これであなたも有段者よ!?」
「こ、これ…」
黒帯自体が彼女からのプレゼントだったのである。
「ルービン、さん…」
「さぁ、早くここを立ち去って! 他の避難民達がこの船を狙って
いるわ!!」
「…わかったであります!!」
ケンツは泣きながら、ブリッジへのエレベーターに走った。
「それにしても、スコット、君のことを見直したよ!」
感心しきりのロディ。
「ああ、まさかたったひとりで3時間もぶっ通しでライブを続ける
なんてなぁ… 内容はともかくだがな」
ちょっぴりきつい台詞を盛り込みながら、バーツも感心する。
「そうかなぁ! まあ、確かにみんな大笑いしてくれたんだから、
僕のジョークも大したもんだよ? なっ!? おひねりもたくさん
もらったし、一件落着だよっ!!」
という声がかれている。何という激しいライブだったのか。
「ああ、大したもんだ」
「しかも、稼いだお金でマルロとルチーナにおもちゃやぬいぐるみ、
おまけに三輪車まで買ってやるなんてなぁ、やっぱりお前は俺達の
キャプテンだよ!」
「いやぁ! あはっ! あははっ!!」
やたら調子づくスコット、結局タウトのこともわからずじまいで、
難民の慰問に行っただけにも関わらず、どうしようもない笑顔で、
キエフ号からお別れの通信を受けた。
「…えっ!? ホルテさん、彼氏見つけたってぇ!? 2つ年下で、
僕よりジョークが上手い!? そ、それじゃあさっさと行けって
いうのは、僕が邪魔になったから? そんなぁ… もしかして、
僕のジョークライブを、ホルテさんの隣でずっと見続けていた、
あの優男か!? くそぉっ!!」