銀河漂流バイファム13
へなちょこストーリーダイジェスト
第13話
「冗談じゃねえっ!! なんで俺が間男代わりなんかやらなくちゃ
いけねーんだ!? そんなことでククト軍に捕まるぐらいなら、
逃げてやる! どこまでも逃げて逃げて逃げまくってやるっ!!
そしていつの日か、お前達全員に復讐してやるぜ!! くそっ!
ロディ、おぼえてろよっ!!」
絶体絶命!
さらば愛しきJrたち
「くぅっ、バーツのやつぅ…!」
上を見ながら、スコットは歯ぎしりを抑えられないほど苛立って
いた。
僕のささやかな楽しみ、ナレーションを勝手に乗っ取るなんて、
許せないっ!!
キレるキャプテン。やはり、「やる気」が彼をイケない方向へと
導くようだ。
「みんな、非常警戒態勢だ!」
「何もそこまでムキにならなくても…」
クレアの冷たい一言。クルーにとっては、彼のご乱心はいつもの
ことなのだ。
「違うっ! 僕はみんなのことを思って!」
前回のやる気の無さはどこへやら。猛然と困難に立ち向かう彼の
背中に今までの不幸の数々を重ねあわせ、先行き不安になる一同。
いや、少なくともここに一人、不安がらず熱血している男がいた。
「ロディ、やつを追え!!」
「わかった! 必ず叩きのめしてみせるっ!!」
名指しで捨て台詞を吐かれたロディも、黙ってはいられないのだ。
何故か首にはちまきを巻きながらブリッジを出た。
さて、バーツはというと…
ホルテ・ルービンの乗ってきた小型艇の操縦席にいた。
自慢の赤ジャンパーを脱ぎシャツ一枚で汗だくになりながら試行
錯誤しているところからして、かなりの悪戦苦闘ということらしい。
ああ、それはエアコンの暖房スイッチなんだってば。
…なんせ、ネオファムじゃバレバレだからなぁ。
これがうまく動いたら、きっと奴等も勘違いして脱出も容易だ。
ラピスのメンバーとしてスカウトしてもらえるかもしれない。
その後うまくククト軍と取り合って、あっちのエースパイロット
になり、ロディと対決! うーん、なかなかいいシナリオだぜ!
ごちゃごちゃ考えている時間が長いのは、要するに動かないから
である。結局頭に来てコンソールをぶん殴るバーツ。
「ちくしょうっ! なんで動かねーんだっ!?」
「バーツっ!!」
名前を呼ばれ、小型艇の外に出た時思わず涼しさを感じた逃亡者は、
夢と見紛う光景を目にする。
スポットライトを浴びながら格納庫上部スロープに颯爽と現れた
のは我らが主人公、イプザーロンの貴公子ロディ=シャッフル!!
拳を握り締めるバーツ。主人公特権に怒りすら覚えたのだ。
<<兄さーん、ライトこんなもんでいいー?>>
「ああ、バッチリだ。…お前、そんなにしてまで助かりたいのか!?
しかも自分だけ! バーツ! 男として恥ずかしくないのかっ!?」
唖然とするバーツ。言いがかりにも程がある。
「お前が間男の身代わりなんて考えたからだろーがっ!!」
「追いつめられたこの状況でよく言ったもんだ! とぉっ!」
作業用ワイヤーを掴むと、スロープを華麗に飛び出した。
ずるずるずるずる…
案外のんびりと降りて行くワイヤー。
<<兄さーん、ワイヤーこんなもんでいいー?>>
「ああ、またもやバッチリだ。…バーツ、お前とは一度、きちんと
男の決着をつけなきゃいけないと思っていた。いくぞっ! ロディ
国電…」
「そうか、ついに決着をつける時が来たかってことか! なら…」
バーツは、ロディに背を向けると、慌てて小型艇の中に入る。
「逃げるのか、バーツ!?」
思わず出しかかったパンチを引っ込めるが、結構難しいらしい。
ロディはその場で一人ひっくり返ってしまう。
「馬鹿言うな! 俺が『赤ジャンのバーツ』って呼ばれてるっての
知らねーな?」
不敵な笑みを浮かべるバーツ。本当にジャンパーを取っただけの
ようである。
「今こそ俺の真の力を見せてやる… 武装ーっ! 赤ジャーンっ!!」
その時、格納庫内が強烈なまでにまばゆい光に包まれた。
「何するのかと思えば… ねぇ、兄さん達、決闘始めちゃったよ?」
「放っておきなよ。どうせ男達って、拳でしか分かり合えないんだ
から」
単純なもんねぇ… と笑ってみせるマキ。
だが、単純な人が他にもいたりする。
「私、面白そうだから見てきます!」
カチュアがブリッジを飛び出した。
さらに単純なやつもいたりする。
そうだよ! 俺もちゃんと決闘すればいいんだ!
ついさっきまでふさぎ込んでいたケンツが、突然瞳を輝かせた。
くっそぉ! 見てろよペンチ!
いや待てよ? それより現状の打開の方が先だ!
下手擦りゃ決着をつけることができなくなるからな!
よぉし! 徹底抗戦だ! …と、拳をあげて叫ぼうとした途端、
「避難民を脱出させるのよ!」
と、横からマキに割り込まれるてしまう。
「オトリ作戦だよ! ウェアパペットがうんざりするほど余ってる
から! 時間稼ぎに持ってこいじゃない!?」
ロディとバーツの決闘が行われている間に、マキには当然出番が
回ってくる確率が高くなる。これを逃す手はない。
「久しぶりに台本通りのシチュエーション! それ行こう!」
提案者は違っているのだが、スコットもとても乗り気だ。
「よぉし、平穏な今のうちに、手の空いている者はオトリを作って
くれ!」
ちぇっ! 何だよ、ったく…
またもふさぎ込むケンツだった。
さて、ルルド艦はというと、こちらも上を下への大騒ぎ。
何しろ今回で出番が最後だというのに、ルルド自身はまだ完全に
ARV「ブラグ」の操縦をマスターしているわけではないのである。
「艦長、筋はいいんです! 大丈夫、自信を持って!」
「そ、そうか?」
副官バリルの励ましを受けながら、必死にブラグを操作する。
そのけなげな姿勢に、副官以下部下一同感動を覚えるのだった。
「うっ!」
ホルテが唸る。
「何これ!」
クレアが思わず叫ぶ。
「どうしたの?」
マキは平然としている。
「マキ、あなた何とも思わないの?」
「何が?」
「匂いよ! ここのに・お・い!」
ここはウェアパペット格納庫。
端的に解説すると、汗と体臭の匂いである。しかもかなり年期が
入っている。
あんなものやこんなものまでが脱ぎ散らかされてあるのだから、
当然といえば当然。男の仕事場というのはこういうものである。
「アタイじゃないよ! 前に使ってたおっさん達の匂いだってば!」
「じゃあ、どうしてこれが今までずっと平気でいられるの!?」
潔癖性クレアの追求は激しかった。
「あ、あそこにも脱いだままほったらかしの… マキさん、あなた
あんな状態で何とも思わないの!?」
同じく潔癖性ホルテも厳しい。せっかくの有馬温泉が台無しだ。
「そんなこと、言われても… あ、それだったらケンツやシャロン
だって…」
「あなた、あの子達と同類なのね…?」
しまった!
「そ、それは…」
動揺したマキは、続くクレアの言葉を聞いてさらに冷や汗を流す。
「あなたが片付けるんでしょ? 当然よね!?」
ルルド艦の格納庫では、依然猛特訓が続く。
「操作が複雑なため、変形機構の使用は諦めましょう。堅実な操縦
だけに気を配りましょう」
バリルがそうつぶやくのも無理はない。
ルルドの操縦によって、すでにブラグが一機破壊されてしまって
いるのだ。車庫入れ練習時の操作ミスとはいえ、単なる不注意では
すまされない。
だが、バリルは諦めない。
「スティックの操作が不自然です。こう…」
ルルドへの指導熱が極まったその時…
はっ! 二人の間に衝撃的な稲妻が走った。
触れる手と手。
見つめあう瞳と瞳…
「ロディ! よくも今まで自分だけいい思いしてくれたな!」
「何を! バーツの方こそ危険なことをやろうとしてたじゃないか!!」
「やめて二人とも!」
「じゃああの艦内通話は何だ!」
「お前だってルービンさんにボディチェックをしようとしてたぞ!」
「私、困ってしまうわ!!」
「ああそうさ! お前の邪魔がなけりゃ…!」
「こっちだって、バーツが止めなきゃもう少し…!」
「お願いだから、私なんかのために喧嘩しないで!」
「そうだよ! どうせ処分するなら、パペットの中に放り込んじゃ
えばいいんだよ!」
マキの意見はいつにもまして的確だった。
冴えまくる発言、自分でも怖くなる程である。
なるほど… と納得する一同。
急いで、本当に急いでオールオーバーへ詰め込まれる、おっさん
達のあんなものやこんなもの。手袋や箸などで掴まれたりして少々
かわいそう。いや、それほどひどいのだから仕方ない。
「もうひとつ提案があるんだけど…」
「どうしたの、クレア?」
またいちゃもんをつけてきたら、今度は反撃に出るつもりのマキ
だったが…
「赤ちゃんのおむつ、カビが生えてきたみたいなの。これも入れて
おいていいかしら?」
いいアイデアには素直に納得するしかなかった。
せっかくロディ達がエロ本片手に苦労して提供したタオルおむつ
だが、何の迷いもなくオールオーバーへ放り込まれていくのを見て、
マキは頷いた。
「そ、そうだね。それだったら他にも何か要らないものを…」
「さすが艦長! 素晴らしいです!!」
拍手喝采を浴びながらコクピットから出てくるルルド。
何とか先程のトラブル?も乗り越え、ついに基本動作については
完璧に乗りこなせるようになったのだ。
「バリル、お前がいればこそ、マスターすることが出来た!」
そう言われるとバリルも鼻高々だ。
「ありがとうございます!」
「カミさんに似てたからつい副官なんぞに任命してしまったが…」
「は? 何かおっしゃいましたか!?」
「いや… ともかく、お前のような優秀な部下を持って私は嬉しい!」
「光栄です! 次回の給与査定の折は、何卒…」
「わかっている。それにしても… 皆のもの、よく聞け!!」
わざわざミカン箱で作られたお立ち台にあがるルルド。
鼻息も荒く演説を始めた。
「私の可愛いカミサンをたぶらかしただけでも極刑ものだが愛しい
息子達まで連れ去りおった! さらにあんな田舎者の艦に逃げ込む
ばかりか、色仕掛けで骨抜きにしようと我が艦にスパイを送り込み、
あげくの果てには男ばかりのこの艦に禁断のエロ本攻撃! こんな
侮辱を受けたのは小学校以来だ!!」
感銘を受けるクルー達。特に「禁断の〜」のくだりには別のもの
まで想像し、自ら酔いしれる。
「これ程の極悪非道な与太郎を見逃しておいてよいものかっ! 否!
たとえお天道様が許しても、私は絶対に許すことができない!」
「おー!」
「同志達よ! 声高らかに叫ぼうではないか! 1、2、3…」
「ダーッ!!」
「はぁ、はぁ、なかなかやるな、バーツ!」
「ふぅ、そっちこそな!!」
「ひどい顔だな!?」
「そーゆーロディだって!!」
あはははっ!!
高らかな青春と友情の笑いが格納庫にこだまする。
本当に拳で語り合ったらしい。めでたい人達だ。
「二人とも、素晴らしい戦いだったわ!」
大満足のカチュアも加わり、清々しさ大爆発の少年達。
と、そこへ大音量の艦内放送。
<<ちょっとみんな聞いて! 要らないものがあったらパペットの
格納庫まで持ってきて!>>
何かがひらめいたカチュア、早々に格納庫を後にした。
ブリッジに残っていたのはスコットとフレッド、ジミーだけ。
「決闘、終わったみたいだよ?」
「さっさと戻って来いって言ってくれ!」
「でも、これからシャワー浴びるって言ってるよ?」
「…」
黙っていたのはジミーだけではなかった。
パペット格納庫ではまだ作業が続いていた。
「あなたたちは見てはいけません!」
青少年難民保護規約にひっかかりそうな本を、何冊かほうり込む
ホルテ。ロディやバーツが持っているのを見つけた時から、ずっと
目をつけていたのだ。
あの大量なそういう本を前に、今回は、特にマニアック度の高い
ものを選定してひとつのパペットにほうり込んでいた。
これでスコットも道を踏み外さずに済むわ!
「さぁ、もういいわよ!」
これでほぼ集めていたゴミが無くなり、一通り作業が終了した事
になる。全部で10人分のダミーが完成したが、まだ物足りなさを
感じるマキ。
「やっぱり全員分作りたいよね?」
「そうね、放送もしたし、そのうち誰か持ってくるわよ」
クレアも含め、しょーもない欲望にとらわれた彼女達。
「ねぇ、詰め物もっとない!?」
「あのぉ…」
廃品回収実施中を聞きつけたルービンがチャンス到来と「詰め物」
を提供する。
「こ、こんなのどうかしら?」
「そうよ! これはいいわ!」
その物体を見るや否や、ホルテも強烈に部下の主張を後押しした。
「いいねそれ! どっかで見たことあるような気もするけど…」
「き、気のせいよ、オホホ…」
不気味な笑いを残して去るルービンと入れ替わるようにペンチが
やってきた。
「あ、あの、これ、捨てたいんだけど…」
「ペンチが本を捨てるなんて珍しいね… 何これ!?」
「だって、それ、フレッドに持ってるの見つかったら大変だから…」
やけにしおらしいペンチだった。
またも入れ違いで、ペンチの次に来たのは…
「あれ、カチュア。あんたもなの? そ、それは!?」
<<よぉし、避難民脱出準備完了! 射出するぞ!>>
「えっ?」
突然の艦内放送に驚いたのは、Jr達の面倒を見ていたシャロン
だった。
そんな話聞いてねーぞ!?
さっきの「要らないもの集め」ってのは何だったんだよっ!!
と、あたふたしている間に時間は過ぎ、約3分後…
窓の外をオールオーバーの大群が横切った。
「何だよ! みんな脱出しちまったのか!? こりゃやべーよ!」
彼女は慌てて格納庫へ走った。
「オメーらをあんなヒデー父ちゃんのとこになんか返せるか!」
残っていた最後のオールオーバーの上半身部分に、Jr達を放り
込むシャロン。
自らもオールオーバーに入り込む予定だったが、もうパペットは
残っていなかった。仕方なくノーマル宇宙服を着用する。
その時、いつもと違うものを感じ取った。
「うえっ! 何だこの匂い!」
いつもは感じなかったシャロンだが、先程のゴミ収集の名残りが、
この部屋の匂いというものを感じさせていた。
ともかく、準備万端整ったシャロンは大慌てでジェイナスを出た。
<<敵ARV急速接近。グレードマイナス1から…>>
ボギーの的確な状況報告を遮るようにスコットが指示を出す。
「よぉし、みんな、ブリッジに来たな! ルービンさん、僕達難民
が脱出したことを伝えてください!」
「わかったわっ!!」
相変わらずよくわからない言葉を叫び続けるルービンだったが、
「えっ?」
突然顔色が変わった。
「難民かどうか確認するんですって!?」
<<ひどい! 大量のゴミです!>>
<<このタオルはひどく汚れています!>>
<<この紙切れは… ククト語ではないのでわかりません! 何か
のチケットのようですが…>>
<<こ、これは! 依然転送されたエロ本と同系列と思われます!!>>
部下達の適切な報告に満足しつつも、嘘をつかれたこと、ゴミを
まかれたことに怒り心頭のルルド。
<<貴様ら許さん! 我がククトの宇宙をゴミで汚すとは!!>>
そのゴミを出してすっきりしていたルービンは、ルルド達の行動
に苛立ちを感じながらも、あまり余計なことは翻訳せずルルド艦長
の言葉のみクルーに知らせた。こうすることにより、自分の出した
ゴミの内容がバレずに済むのだから、立派な大人の判断である。
「あの中、ゴミだらけなのか!?」
タオルで髪を拭きながら、ロディがブリッジに上がってきた。
「そういやぁ、さっきから艦内放送だらけじゃねーか? 何やって
るんだ、みんな?」
本件に関わってなかったバーツが、いきさつもわからずに、ただ
首を傾げると、コキッと首が鳴った。
「たくさんのミカンにカビが生えてたんです! 生ゴミはきちんと
処理しておかないといけないわ!」
「みんなが早く食べないからよ!」
「ま、その他モロモロ入ってるけどね」
カチュアのヒステリックな説明にクレアやマキが合わせる。
要するにこちらも、立派な大人の判断と言えよう。
そりゃルルド艦長ってのも怒るだろうな…
タオルを手にしたままのロディは思わずしかめっ面。
肥料になるのに…
ジミーも人目につかないようにしかめっ面。
そんなことは関係無く、スコットは焦る。
「今からでも遅くない! バーツ! 『間男』対策で…」
「もういいじゃないか、スコット! そのことはもう済んだことだ」
何故か爽やかロディが割り込む。
苛立ちを隠せないキャプテンは思わず怒鳴りつけた。
「君が言い出したことじゃないか!」
「何ぃ!」
その時、一機のARVブラグから一筋のビームが放たれた。
かすった程度だが大きく揺れるジェイナス艦内。
ブリッジでも皆ひっくり返っていた。
「もうだめか! 仕方ない、みんな、戦闘態勢に入ってくれ!」
「銭湯大勢で入ってくれだってよ! スコットのジョークも少しは
面白くなったじゃねーか!」
すねるバーツ。
お、面白い! 面白すぎる! くそっ、バーツのやつっ!!
思わぬ才能に触れた驚きを隠せず、またも悔しがるスコット。
だが、今はそんなことは一応言っていられない。
「だからバーツ、戦闘配置についてくれよ!」
「勝手にしろよ。俺はしらねーからな!」
「どうしちゃったんだよ!?」
「自分の胸に手を当ててよーく考えてみろ!」
バーツはその場でふて寝を決め込んだ。
「まいったなぁ… よぉし、ロディ! バイファムで…」
「俺も嫌だ」
「えっ? なんで? どうして!?」
わけがわからず激しく頭を掻くスコット。
フケの散乱が周囲の女子一同の顰蹙をかう。
そんな中、ロディが主人公の重みをきかせた発言を行なう。
「スコット、お前はひどい男だよ。バーツをしばりつけたあげく、
あらぬ疑惑をかけて… そんな人でなしの言うことなんか聞く事が
できるか!?」
拳の友情は熱く、そして重い。
「むこうの艦長も乗ってるんだろう? 君もバイファムに乗って、
あいつらと拳を交えてきたらどうだい?」
「できるわけないだろう!? ああ、このままだと僕達みんな…」
その時、今度はジェイナスから二筋のビームが放たれた。
右腕をジェイナスからのビームに貫かれたARVブラグが一機、
やむなく母艦へ帰っていく。
スコットがブリッジを見回す。
そういえば一人足りないような…
今頃気付くとは、キャプテン失格ではなかろうか。
「あれ? シャロンかな? フレッド、誰がいるのか調べてくれ!」
「うん… あーっ!」
「どうした!?」
「あの、その…」
「どうしたんだ? ジミーの真似して。誰なんだ?」
引き続きフレッドはジミーの真似をした。
「……メリー」
「はぁ?」
あっけにとられる一同−1。
唯一人、ジミーだけは大きく口を開けて笑っていた。
確かに、一人足りないだけだった。一匹は数にも入っていない。
こうなると、スコットはさらにキャプテン失格と言えよう。
でもって…
最近全然出番がないから安心してたのに! くそっ!!
おいしいところを持ってかれたと思うロディの怒りもごもっとも。
まさかの大穴、だったのである。
ジミーについて歩いているうちに、操作方法をマスターしていた
のだから素晴らしい。
しかも、彼女は紙を食べるだけでは飽き足らず、「読む」ように
なっていた。当然砲座操作マニュアルも熟読している。
さすがはククトヤギ、地球のヤギとは雲泥の差である。
こりゃいいや、とキャプテン小躍りするも…
<<おーい、置いてくなよぉ!>>
こっちはジミーも驚いた。
突然彼らのわかる言葉の通信が入ってきたのである。
「ま、まさかまた大佐の亡霊とかじゃないだろうね?」
スコットの不安は外れ、送信元はすぐ判明した。
ARVブラグに囲まれたオールオーバーの大群に、ようやく追い
ついたノーマル宇宙服である。しかも一体のオールオーバーの手を
引いている。
<<声かけてくれねーなんてひでーよぉ!!>>
「あれ、シャロンだよ! そうだよ!」
フレッドの推測に皆が頷いた。
ここにいないのがシャロンだけなのだから。
「シャロン! 違うんだ! 戻ってこーい!!」
<<なーに言ってんだよ… って、あれっ!?>>
何やらノーマル宇宙服が宇宙空間でドタバタし始めた。
多分、慌てているから姿勢制御が出来ないのだろう。
シャロンは廃品オールオーバーの集団に突っ込んだ。
はじけるオレンジのウェアパペット、方々に散ってしまった。
さながらボーリングの状態である。
はっ!
何故か、いいアイデアがペンチに浮かんだようだ。
思わず今までにないほどの大声で叫ぶ。
「シャロン! その中にルルドって人がいるわ! あなたと子ども
の事で話し合いがしたいそうよ!!」
「そ、そんなこと言ってないよ…」
とうしてその考えに至ったのか理解できないフレッドのつぶやき
は、当然のごとくペンチの心を動かすはずがない。
「いいの! シャロンだったら何とかするわ!」
別に、この状況が何とかなることを望んではいなかった。
やったわ! シャロン亡き後、私のお部屋は一人になるの!
そしたらフレッドを連れ込んで、あんなことやこんなことを…
とらぬたぬきのなんとやら。
この時の瞳の輝きはフレッドには純粋な愛に満ちた天使のそれに
見えた。
<<そっか。ちょうどいいや… やい! てめぇそれでも親かよ!!>>
シーン…
<<あ、そうか。ルービンさん、通訳してくれよ。 …許せねぇ!
自分の子どもにいい加減な名前つけやがって! ざけんなよ!!>>
ちょっと、そんな言葉どうやって通訳するのよ?
とかなんとか思いながらも、適当にククト語にはしていた。
だが、さすがに次の台詞には参った。言えるはずもなかった。
<<『タロ』『ジロ』なんて、犬の名前じゃねーかっ!!>>
「…は?」
くくくっ! 本気で騙されてるわ!
笑いをこらえながらも、してやったりのペンチ。
シャロンは11話でペンチから教えてもらった名前を、そのまま
信じ込んでいたのである。
無論、こんな名前であるはずないのだが、ククトニアンの名前が
彼らの常識であるはずもなく、シャロンにとっては何の疑いも無く
受け入れてしまった、ペンチ考案の嘘の名前だったのだ。
しばらく応答がなかったが、やがて低い声がブリッジに響き渡る。
「この名指しで罵詈雑言飛ばしまくってる上に人に尻を向けている
のはお前達の代表者か? って聞いてきたわ?」
なるほど、シャロンが向かい合っているのは、オールオーバーを
調べている部下の方の機体である。
「そうよ? 彼女は私達の代表者なの!!」
「しかし…」
「僕の立場は… ぐえっ!」ドサッ…
「そ・う・っ・て・言・っ・て!!」
ペンチの迫力はルービンの判断を否応無しに狂わせた。
「わかったわ…」
<<その人が私達の代表者で間違いないわ>>
<<女、しかもガキんちょみたいだが…>>
<<その通りよ。しかも、私の魅力にも気付かない程のガキんちょ…>>
<<ガキんちょが代表者だと!? 大人はいないのか!?>>
<<いたら私ももう少し喜んだんだけど…>>
<<ちょっと待て! お子様軍隊など聞いた事もない!>>
<<なんなら見てみる?>>
「みんな、あのおじさんがみんなの顔を見たいそうよ」
素晴らしい、まさに「オトナの駆け引き」である。
「何なに? アイドルオーディション!?」
「違うって、クレア。ただ見たいだけなんだってさ」
「なんだ、あたしどうでもいいけど」
「アタイも」
クレアやマキ、言ってる事と立ち位置が違う。
「ペンチ、こっちだよ! どうしたの?」
「何でもないわっ!」
ご機嫌ななめのペンチ。シャロンを蹴落としきれなかった不満が
顔に出ていた。
「ケンツ…」
「あ、ああ…」
「さぁ、二人とも、仲良く並びましょう、ね?」
負け犬組のケンツとジミーも、カチュアに連れられて立ち位置を
決める。
「ぼくのおかおがあっちのおじちゃんにうつるんだね?」
「かわいくうつるといいなぁ!」
先程まで知らんぷりで○×ゲームで遊んでいたマルロやルチーナ
までもが、テレビカメラの前に急いで入る。
さっきまで寝転がってたバーツとロディもいきなり映像を見せる
事になったため、慌てて立ち上がった。
映像を送信すると、ルルドは驚愕した。
<<その後ろに寝転がってるのは…?>>
「気絶してるだけよ」
ルービン自身はスコットに対して冷たいわけではないのだが説明
が大変なのでほったらかしにすることにした。
<<これで、全員… 本当なのか?>>
「こっちだって危険な目に遭ってまで、見知らぬおっさん囲う義理
なんてねーよ」
今までの怨念を込め、イヤミたっぷりにバーツがつぶやく。
「赤ちゃんにしたってそうさ。通りがかった宇宙ステーションに、
取り残されてたんだ。助けてあげるのは当然さ」
爽やかロディも負けじと付け加えた。
<<じゃあ、息子をステーションから連れ出したのは…>>
「一応俺っちだけどもよぉ。本当はコイツかな?」
「えへへっ!」
マルロがはにかむ。
二人の応対を即座にルービンが通訳すると、一瞬険しい顔になる
ルルド。
<<き、貴様が、間男なのかっ!!>>
モニターの映像で、全員が「ちゃうちゃう」と手を動かしたので、
違うのだろう。
<<先程我々のARVを攻撃して来たのは…>>
モニターの映像で、全員が「上、上」と指差したのでカメラアイ
をジェイナス上方に向け望遠モードにすると…
ルルドは頭を抱えた。
<<我々は、ヤギと戦っていたのか…!?>>
かなりショックだったらしい。
少しして、シャロンは咄嗟に父親にJr達を返す事を思い付いた。
<<そうだ、あんた父親なんだろ? ほら、ここにいるのがあんた
の可愛い赤ちゃんだぜ!>>
<<何だ、それは?>>
「…って言ってるわ」
<<何だとは何だよ! あんたの可愛い… あれっ?>>
シャロンの顔がみるみる青ざめる。
<<さ、さっきぶつかった時に間違えちまった!>>
今ルルドに見せていたのは、白っぽいような茶色っぽいような、
やけにまだらな熊のぬいぐるみだったのだ。
せっかくARVブラグで囲っていたのにシャロンが激突したため
方々に散ったオールオーバーの中に、本当のJr達がいる。
ルルド隊のARV達が慌てて付近を捜索している間にシャロンは
熊のぬいぐるみ入りオールオーバーを引き連れて、そっとそぉっと
ジェイナスに戻ってきた。
「全速前進っ!! 急いでこの場を離脱するんだっ!!」
主人公ならではのロディの叫びも、多少虚しいものがあった…
「むにゃむにゃ… ホルテさ〜ん… ダジャレが… コーヒー…
はっ!! ぼ、僕はどうしてこんなところで眠っていたんだ!?
そうだ! 大変なことに… 一体どうなったんだ!? どうして
みんな僕を見て笑っているんだ!? ん? 警戒態勢解除だって!?
何が何だかわからない! 誰か、教えてくれ〜! 僕はこれから
どうしたらいいんだぁっ!?」