銀河漂流バイファム13
へなちょこストーリーダイジェスト
第11話


「暖かいというのはいいことだ。それだけでやる気になってくる。
 でも、エアコンもいいけど、やっぱりクレアが丹精込めていれて
 くれるコーヒーが一番心に染み渡る、うん。やっぱりコーヒーだ。
 コーラじゃこうはいかないからね? 第一あったかいコーラって、
 そんなのあったかい? …ん? こ、これって、ダジャレ!?」

赤ちゃんは元気に!
両親はどこにいる!

「よぉし、ラストチェックだ。どう?」
 ジェイナスの通路では、ロディとバーツが艦内のチェックをして
いた。
「ばっちし、オッケーだ。つーか、どうせボロボロだから、こんな
もんだろ?」
 確かに、Jr達の怪光線で、完膚なきまでに叩きのめされたあと
なのだ。適当に動いてりゃいいというのがバーツの考えだった。
 ところが…
 ちくしょうっ! と、舌打ちする男もここにはいたりする。
 適当でも正常動作していればちくしょうも何もないと思うのだが、
我らが主人公の考えは完全に一般のそれとは違っていたのである。
 理由はただ一点。
 どうすればまたあの電話に繋がるんだ!?
 やはりどこか故障してなければ駄目なのか!?
 妙に焦るロディ。
 いくら考えても、Jr’sがどこかを壊したから電話が混線した、
としか結論が出ないらしい。まったくもって単細胞主人公である。
 いっそ夜中にあちこち壊して回るか…?
「まさか、あの電話に繋がらないのを嘆いてるんじゃないだろうな?」
 図星だった。
「そ、そんなことないさ!」
 首を横に振るロディがそれ以上の事を考えているなど、バーツが
知る由もなかった。
「だったらいいけどよぉ。で、一体どんな話だったんだ!? 勿体
ぶってないでいい加減に教えろよ!?」
「ふふん! な・い・しょ!」
 急に鼻の下伸ばしまくってデレデレのロディに、もはや主人公の
面影はなかった。
 どうせ相方は聞く耳持たないと、独り言をつぶやくバーツ。
「それにしても、直ってよかったぜ。一歩間違えれば全員氷づけで
あの世行き。あぁ、やっぱエアコンってのはいいもんだよなぁ… 
おかげで俺達の二世も元気になって…」
「バーツの方はでっかいうんちもしたしな?」
「Jrをつけろよ!」
 何故かムキになって言い返すバーツ。
 こいつ、何でそんなとこだけ反応するんだ?
 今朝はベルウィックバナナのお世話になったバーツだったりする。

「触ってみな?」
 医務室では、相変わらずJr達を囲んでワイワイ騒いでいた。
「こいつらメチャかわいいよ! こうやって手を触ると… ほぉら、
にぎりかえしてくるんだ!」
 シャロンは本当に赤ちゃんを可愛がっていた。
 みんなも大騒ぎしながら赤ちゃんと戯れる。
 見ていてホノボノとするほどに。
 ところが…
「カチュア、やってみなよ?」
 シャロンの誘いに、自分が下戸だと知りながら呑みに誘ってくる
上司に渋々付き合うような時に見かける情けない顔のカチュア。
 言われるままに手を触る。
 確かにギュッと握りかえしてきた。
 可愛いとは思う。だが…
「オレ達になついてきたんだよ!」
 こんなシャロンの素直な感想にも首を横に振るカチュア。
 騙されない! 私、騙されないわっ!!

 コンコン…
 スコットとクレアがドアを開けると、そこにはルチーナから奪い
とった熊の縫いぐるみを抱いたまま、服も着替えずにベッドで眠る
ホルテの背中が見えた。
 彼女達の新監禁場所は、一応ベッドも備わった普通の個室。
「ホルテさん、どうやら眠ってるらしいな?」
 近づくと、彼女のよだれで熊がびしょ濡れになっていた。
「疲れてるんだわ。あなたのくだらない駄洒落で体力消耗したのよ」
 もう食べられない… という寝言は、クレアには聞こえなかった
ようだ。
「何言ってるんだ! 僕のジョークは… もご、ふご…」
「大声出さないで!」
 そういうクレアの方がよほど大きな声だった。
 だが、ホルテが目を覚ます気配はない。
 口をもごもごしながら寝返りをうつ。
「面白い駄洒落が浮かんだから一番に知らせようと思ったんだけど
なぁ」
 麗しい寝顔に心をうたれたのか、スコットはつい本音を口にした。
「あなた、それだけのためにここへ来たの!?」
 呆れるクレアに、ジョークの名手は淡々と答える。
「そうだけど?」
「はぁ… 心配して損しちゃった…」
「はぁ? 何の心配?」
 スコットもまだまだ子どもである。
「そんなの聞いたらもっと疲れるわ? それよりこのまま寝かせて
おいてあげましょう? 女性の寝顔を覗き込むなんて失礼よ!」
 先に部屋を出る少女の背中に、スコットはある気迫を感じとった。
 怒ってるなぁ、クレア。
 ビデオ録画の件、相当頭に来てるんだなぁ?
 そう、過去のホルテへの怒りは今、全てJr’sへと向けられて
しまったのである。
 その結果、いかず後家のホルテに同情の念すら抱いていたりする。
若いとは、それだけで恐ろしいものがある。
 ブリッジへ戻る廊下で、しばらく無言で歩く二人。
 この沈黙の時間、余計な心配がキャプテンの頭を駆け巡る。
 まずい。このままだと三日間食事抜きとか言われそうだ…
 真剣に考えるスコットに、クレアが突然声をかけた。
「真剣に考えないといけないわね?」
 うわぁっ! やっぱり食事抜き!?
 焦るスコット。彼にしても、ジョークよりは三度の飯である。
 だが、彼女のやけにあっさりした表情を見た途端、もしやと思い
一応内容を聞いてみることにした。
「な、何を…?」
「これだから男って! 赤ちゃんの今後のことよ?」
「なぁんだ、そんなことかぁ! あははっ!!」
 こわばっていた表情が一転、顔に変わると、得意げに話し出す。
「そうだなぁ。やっぱり見栄張ってでも幼稚園は私立の方が…」
「スコット、あなたずっとあの子達を育てていく気なの!?」
 はっ!? ち、違うのか?
 そりゃ違うと思うのだが。
 再び焦ったキャプテン。彼女を怒らせることだけは避けなければ
ならないのだ。
「い、いや、そういうわけじゃないよ。ただ、タイミングが…」
「返すにしても、慰謝料や養育費の問題もあるし… タイミング、
そうよね、重要よね?」
 感心されても困ってしまう。
「い、慰謝料って、クレア…?」
「ほんと、うまい手放し方ってないものかしら?」
 うーん… シビアだなぁ、クレアって。
 スコットは改めて彼女のしっかりした一面を知ることとなった。
 ほっとしたからこその現状認識だったのだが。

 ブリッジでは、ロディ・バーツ・マキ・カチュアのダブルデート
四者会談が執り行われていた。
「えっ? 赤ちゃんを返す?」
 カチュアの提案に驚いて、思わず問い返すロディ。
「ええ、それが一番いいと思う。また病気になることだって…」
 そこがいいところなのにっ!?
 どうもロディは、間違い電話の原因を完全にJr達の破壊工作と
完全に決めつけてしまったようだった。だが…
 またあのおねーさんと電話でお話出来るかもしれないじゃないか!
 …とは言い切れない。まだ主人公の自覚が残っているのか?
「ずっと一緒にいるとジェイナスを壊されるだけだと思うの」
 カチュアの本心である。
 彼女も、これ以上ビデオ録画が出来なくなることを考えた場合、
Jr達を放り出す方を選ぶということだ。
 居合わせたバーツとマキも軽く頷く。
「壊される、か。あるよなぁ、そういうことって」
 ドライヤーが使えない間みんなに笑われっぱなしだったという、
辛い過去をかみしめるバーツ。髪が女の命なら髪型は男の命なのだ。
「カチュアの言う通り、ここらでちゃんと考えないといけないね?」
 3−2が相当頭にこびりついているマキ。停電するってわかって
いたら、誰がゲーム機の電源など入れるものか。だが、自分の事を
占ってはいけないのが、占い師の辛いところでもある。
「そんなことないさ。いい事だって…」
 反対意見は、いい思いをした原因かもしれないと思うロディだけ
である。
「点検は終わったか?
 のんきにブリッジに帰ってきたスコットとクレア。
「ああ、終わった。残念だが異常は無しだ…」
「残念? 何が?」
 ロディの報告に納得のいかないスコット。
 そんなキャップを無視して、ロディは話を元に戻す。
「今Jr達のことを話してたんだ」
「偶然だなぁ? 僕達も今そのことについて話し合ってたんだ」
 スコットの納得ぶりに気をよくしたのか、バーツが言葉を続ける。
「このままジェイナスがボロボロになっていくのはよくないってな?」
「…ん? ちょっと違うなぁ」
「世話をすればするほど、ジェイナスが危険になるのが怖いの」
 切実なカチュアの想いは、バーツ・マキ・クレアが一斉に頷く。
「赤ちゃんを返すとしてだ。返す先の親がどこにいるのかを知る事
の方が先だな?」
 キャプテンとしては、決断にはこういう条件も必要だった。
「オバハンとオトコオンナに頼めば何とかなるかも… お、グッド
タイミングだぜ! ルービンさん!」
 今度はそのルービンが慌ててブリッジへ入ってきた。
「船外修理したのは私なのよ! それなのに、どうして誰も私の事
を認めてくれないの!? さも自分達が解決したみたいに…」
 ぶつくさいいながら近寄ってきたかと思うと、いきなりカチュア
をなぎ倒し、通信担当の席へ座る。
「そうよ! 下敷きに載るにはもっと目立つしかないわ!」
 慣れた手つきで通信機を操作… したはずだったがピタッと手を
止めたルービン。
「あの… みんな。これ、どうやって動かすの?」
 一同、コケた。
 元々、ジェイナスを直したといっても、知識1割ハッタリ9割で
ある。ケンツが適当に通信機を見つけたのと同様、ルービンも適当
に操作してみただけなのだ。動くはずがない。
「な、何始めるんですか?」
 スコットの慌て振りもそしらぬ顔。
「写真を送ったククト軍に、連絡を取っているの。カチュアだった
わね? 手伝ってくれる?」
「無駄だと思うけどなぁ? いくら同じククトニアンだからって…」
 目立つためなら、マキのツッコミにも負けてはいられない。
「あら、私なら出来ると思うけど?」
「どうやって?」
「あなた達お子様には出来ない、オ・ト・ナの駆け引きよ。既に、
実績もあるの」
 ここが勝負どころなのだ。出番もあと3話。もう引き下がるわけ
にはいかない。
 とはいえ、本当の実績はといえば、「カカトオトシ」なのだが…
 どうやらそれでも、「この場」では十分だったといえる。
 軽くウィンクしながらのこの甘美な言葉は、ここにいる男子一同
に衝撃を与えたのだ。女子も女子でそれなりに何となく気付いては
いるのだが、インパクトが違う。
 ちくしょうっ!!
 今までは男っぽいオバハンだと思ってたけど、実はこんなに魅力
的で、”ないすばでぃ”な美人だったのかっ!!
 そうさ! 世の中には「ボーイッシュ」って言葉もあったんだ!!
 ロディとスコットは、今更ながらに彼女の魅力に気付き、未熟な
自分をひたすら恥じた。
 ねーちゃん、やるなぁ!
 対してバーツは、静かに頷くだけだった。
 余裕からの行動にも見えたが、心の奥底では高ぶる欲望を抑える
のに精一杯だったりもする。
 というわけで、オトナの駆け引きがどういうことなのか、わかる
ようでわからないようで、いやがうえにも期待してしまう男子諸君。
 だが…
「しまった。繋がらないわ」
 一同、またもコケた。
 当然だが、いくら高度な「オトナの駆け引き」も通信出来てこそ、
である。
「カチュア、もっとしっかり通信するんだ!」
 ロディの檄が飛ぶ。
「ミノフスキー粒子が濃いわ。誰かが連絡の為に出るしかないわね…」
 またも余計な知識で解説するカチュア。苛立つロディ。
 ん? まてよ?
 そうか! そうなんだ! 今こそ主人公である俺の出番なんだ!
 俺がやらなきゃ誰がやるっ!?
 そして通信に成功すれば、オトナの駆け引きが…
 必要以上に熱血するロディ。
「じゃあ、俺がバイファムで連絡してきてやるよ!」
「やめとけやめとけ。返り討ちに遭うだけだぜ?」
「何だか疲れたから、ちょっと休むわね…」
 ルービンは肩を落としながら去っていった。

 麗しの寝顔に迫る影一つ。
「アン=ホルテ、そろそろ起きてください。交代の時間です」
 ルービンが揺り起こした時、ホルテの顔は一転して激しい怒りの
形相に変わった。
「何よ、もうちょっとでククトウシのステーキ200gが私の口に
入るところだったのに!」
「そんなありがちな夢に幸せを感じないでください!」
「どうしたのよ。もうそんな時間?」
 彼女達にはベッドが一つしかない部屋をあてがっていた。
 いつも地面に寝かされるルービンも昼寝くらいはベッドでしたい
と思うのが当然である。
「12時間も寝ておいて、どの面さげてそんなことをおっしゃるん
ですか?」
 さすがにカチンときたらしい。
 ベッドから飛び起きると、ルービンとにらみ合う。
「次はあなたが12時間眠っていればいいでしょう? その分私が
目立つだけだから!」
「それが悔しいから一緒懸命起きてるんじゃないですか!」
「そんなこというならルービン、あなた最近○*%…」
「ひどい! そういうアン=ホルテこそ@¥×…」
 突然ククト語に変わっての、不毛な言い争いが3分程度続いた。
「…はぁ、はぁ、と、とにかく、起きるわよ。」
 どうやら言い負けてしまったらしく、大粒の涙を浮かべながらも
ベッドを立ち退いたホルテに、ルービンはまだ不満顔。
「これ、どうするんですか? いつまで寝かせてるんですか?」
 指さす先には未だに気持ちよさそうにベッドに横たわり、よだれ
で左頬のあたりが変色した熊のぬいぐるみが、けだるそうに二人を
見つめていた。

 足早に艦内廊下を過ぎ行くククトニアン二人。
「ちょっと待って!」
 ホルテがルービンを制止する。
 どこからか話し声が聞こえてきたからだ。
 声の出所を探るのに、さほど時間はかからなかった。
 何と、都合の悪いことに、医務室のドアが開いているではないか!
 しかも、ここを通らなければ、ランドリーへ辿り着けないのだ。
 静かに、静かに…
「あ、おばちゃんたちだ!」
 げっ! しまった!
 顔面蒼白のホルテ。マルロと目が合ってしまったのである。
 もう逃げられない… 観念したのかわざと自分から医務室に入る。
「し、閉まらなかったの? このドア…」
「マルロがこわしたの!」
 えっ?
 ルチーナの説明に反論するマルロ。
「ちがうよ、ぼくこわしてないもん!」
「あんたがこじあけたからこわれたんじゃない!?」
「そんなことないよ! おばちゃんだって、いっしょにあけたじゃ
ないかぁ!」
「じゃあ、おばちゃんがこわしたの?」
 このガキ、まだおばちゃん呼ばわりするか…!
 両拳が血のにじむ程握りしめられている事を、子ども達は誰一人
として知る由もなかった。それ程までにホルテの爽やかで涼しげな
笑顔は堂に入っていたのである。
「ねえ、おばちゃん、いっしょにねるってかしてあげた、あたしの
くまのぬいぐるみは?」
 ギクッ! まずい!!
「ね、ねぇ? 一緒にお風呂に入りましょう!?」
 突然話題を切り替えるホルテ。
「風呂に?」
「みんなで?」
 あまりに唐突な提案に、シャロンもペンチも首を傾げる。
「そ、そうよ、みんなで! 数少ない読者サーヴィスなのよ!」
「やったー! どくしゃさーびすだぁ!」
 マルロの喜び様にニヤリとほくそえむホルテ。
 オホホ! やっぱり「男」なんてのは、操りやすい生き物なのよ!
 だが、今問題なのは「女」の方である。
「ねぇ、おばちゃん、ぬいぐるみは?」
「ま、まだベッドでおねむしてるわ! だから先にお風呂に入って
しまいましょう! ほら、ルービン、あなたはさっさと行って!」
「はい…」
 壁伝いに医務室を出るルービンは、背中に大きな熊のぬいぐるみ
と洗剤を背負っていたりする。
 お願いだから寝かせてくださいよ、アン=ホルテ…

「敵機、止まりました」
 ブリッジの空気は先程までとは一変、緊迫した… ように見える。
 金魚のふんのようについて回っているククト軍の戦艦から、突然
ARVが一機飛び出してきたかと思うと、ジェイナス・ブリッジの
前で静止したのである。
「違います! 敵との相対速度が0なんです!」
 そういえば前にも同じ事を言ったような気が… カチュアはふと
くだらない白昼夢を見ているような錯覚に陥った。
「燃料がなくなったんじゃねーのか!? 惰性で飛んでるとか」
「だとしたら、随分操縦下手だなぁ? やっぱりそんなことないと
思うけど」
 バーツとロディがゲラゲラ笑っている時、ARVブラグの操縦席
には冷や汗たらたらの人物が右へ左へ操縦レバーをせわしなく操作
する、非常にカッコ悪い男がいたりする。
 何故だ! 昔はこんなんじゃなかったぞ!?
 最新型というのは、より操縦が簡素化されているものなのだが…
 少しずつ、右へ左へフラフラ動き、やがてジェイナス・ブリッジ
から見て左上方へ流れていく。
<<ちくしょーっ! たすけてーっ!!>>
 計らずもこの言葉を聞くブリッジの子ども達。
「何、この言葉…!?」
「ククト語みたいね。ホルテさん達を呼んでくる!」
 やった! こういう出番が欲しかったのよね!
 マキは嬉しそうに緊迫した表情でブリッジを出た。

「ルービンさん、何してんの?」
 ランドリーでお目当ての人物を見つけたマキ。
 驚くのも無理はない。
 タライなんて、どこにあったんだろう?
 根本的な部分から首を傾げるマキだった。
「なんでもないの! それより、何か用?」
 手を止めたルービン、振りかえりもせず問い返した。
「今、敵からククト語で通信が入ってるから、通訳してもらおうと
思って。お願い! ね!」
「…忙しいから、アン=ホルテに頼んでみて」
 ルービンは泡だらけの左手で、通路をはさんで反対側の風呂場を
指さした。
「こんな時にのんきにお風呂入ってるの!?」
 ちょっとむかついたマキ。
 いきなりタライで洗濯したり、お風呂に入ったり… まったく、
ラピスってみんなこうなの!?
 頑張っても目立たない彼女には、こんな日常生活の一部でやたら
目立つ来訪者一行が許せないのである。
 いきなり開けてやるっ! 年増のクセに、キャッ! とか言って
慌てて胸を隠したりしたら笑ってやるんだから!
 なんだかすさまじくオジンくさい嫌がらせを想像した。
 というわけで、躊躇せず風呂場のドアを開けると…
「ババンババンバンバン!」
「歯ぁ磨いたか〜!」
 みんなの声に合いの手を入れている、非常に呑気なアン=ホルテ
の湯船に入った背中があった。
 しかも…
「うえっ、お酒くさい!」
 どこから持ち出したのか、手酌で一杯、ほろ酔い気分なのである。
「あらぉ、どうしたのぉ!」
「出来上がってる… あのね、ホルテさん」
 聞く耳持たないホルテ。取り巻き連中も「ババンババンバンバン!」
の連呼。マキにとってはこの世のものとは思えない光景に追い討ち
がかけられる。
「ねぇ、あなたもどぉ〜!? 有馬温泉の素も入ってるのよぉ! 
そうだわぁ、スコットも呼んできてくれるぅ!? 一緒に入りたい
のよぉ!! 彼と裸同士でジョークについて語り合いたいわぁ!!」
 よく見ると湯船は確かに茶色に染まっている。
 掃除するの誰だと思ってんの!
 もういや、この人…
 ついに血管が切れたマキはその場にしゃがみこみ、頭を抱えた。
 まったくひどい「読者サーヴィス」である。

「この声… ルルド艦長だわ!」
 相手の映像が出なくてもわかるところをみると、相当袖にされた?
事をネに持っているらしい。
「そりゃあ下手なはずだぜ!」
「やっぱりな!」
 バーツもロディも改めて腹を抱えて笑い出す。
「静かに… えっと、間男を差し出せ!? 何の事かしら?」
 ルービンが、いや、ブリッジにいる一同が首を傾げた。
 ちなみに、ホルテはというと、髪を乾かしてセットするのに時間
がかかっているらしい。ペンチとどちらが先に乾くか競争している
とか。どこまでめでたい人なのか…
「敵はもう少し待ってくれるって言ってるわ。えっと… 3時間位
かしら? その間に間男を出せと」
 ルービンが淡々と翻訳する横で、バーツが問いかける。
「間男って、あの間男か?」
「他にどの間男があるっていうの?」
「ねーちゃん、そんな地球語よく知ってんな?」
「そういう君こそ、その歳でよく知ってたわね?」
「まぁな。それより、3時間って言ったら、待つ方も大変なんじゃ
ないのか?」
 その問いに対するスコットの答えは素早かった。
「じゃあ僕が新ネタ満載のミニジョークライブを… もがーっ!」
 バーツが、ロディが、カチュアまでもがスコットを取り押さえた。
 本当に疲れるキャプテンである。

 20分後。
「やっとラピスの母船と通信が繋がったわ! ラッキー!!」
 キャピキャピしてみせるルービン。
 ここで、アン=ホルテがいない間に目立っておかなければ!
 カチュアに操作をやらせておいて、調子のいい女である。
「相手の戦艦に攻撃をやめさせるように連絡してください!」
 的確な指示を出す。あくまでも、あんなお嬢様崩れのオバハンと
一緒にされては困るのだ。
「えっ? ちょっと待って! メモをとるから」
 カチュアの差し出したペンと紙を手に、通信を続ける。
「母親の方から捜索願いが出ているのね? 双子の赤ちゃんが…」
 (地球人から見て相当)怪しい文字を書き綴っていたルービンの
手が、その瞬間止まった。
「間男によって連れ出された?」
 驚く一同。
「双子の赤ちゃんって、まさか…?」
 ロディの問いかけは、ブリッジにいる全員の気持ちと同じだった。
「捜索願いによると、一人はお尻にあざがあるそうよ?」
「ほくろだろっ!?」
 バーツは以前と同じこだわりをみせた。
「そ、そうね。ほくろ、だったわ」
「ズバリ、だな。…ん? じゃあ、間男って…」
 彼の言葉はそこで途切れた。

「いい加減、僕にジョークショーさせろっ!! 君達が僕の才能を
 妬んでいるのはわかっている! でも、それじゃあ何の解決にも
 ならないじゃないかっ!! せっかく相手の艦長も暇を持て余し
 てるって時に… えっ? もっと深刻な状況じゃないのかって?
 どうしようもないじゃないか。それよりホルテさんだよ。お風呂
 に入るならちゃんと誘って… ク、クレア、どうしたの、かな…?」