銀河漂流バイファム13
へなちょこストーリーダイジェスト
第8話


「…まだ、お腹が痛い。…だが、僕が話を続けなければ!」

ジェイナス危うし!
敵は、内と外にいた?

「完全に捕捉されちまったなぁ」
 ブリッジでぼやいたバーツの一言が、現状をうまく表していた。
 ビームの波状攻撃は止むことなく、激しさを増すばかり。
「参ったなぁ…」
 とはいえ、ルービンが交渉に出かけている以上はどうにもできず、
雨宿りでもしている気分のクルーだった。

「大丈夫?」
 どこか冷たい視線を伴ったクレアの問いかけに、
「あ、ああ、さっき胃腸薬を飲んだからね」
 スコットはそう答え、嬉しそうに部屋のドアを閉める。
 そうじゃなくて、あなた<自身>の問題よ…
 クレアは、閉まったばかりの部屋のドアに、真っ赤なハイヒール
を投げつけた。
「何だ、今の音? それよりホルテさん、こんな部屋で、すみません」
「充分よ」
 彼らはこの部屋にホルテを監禁しようというのだ。
 部屋に進んで入ると、人質はくすっと笑った。
「あの子、可愛いわね?」
「は?」
 すっとんきょうな声をあげるスコット。
 あまりに唐突な話題なので、ついていけなかったらしい。
「とてもけなげだわ? 私にもあったのよ、あんな頃が…」
「は、はぁ…」
 今度は自分の世界に浸る彼女。
「でも、私はあんな小娘に負けるわけにはいかない。わかるでしょ?」
「はぁ、まぁ、何となく」
 本当にわかっているのだろうか?
「…ごめんなさい。大人げなかったわね、私」
「い、いやぁ、そんなことないですよ、はい」
 もうスコットは流されるまま、ただただうなずいていた。
 そんなだらしない男に、ホルテが単刀直入に問いかけた。
「あなたは彼女の事、どう思ってるの?」
「は? クレアのこと、ですか?」
 しばらく考えこむスコット。
 やがてしゃがみ込み、頭を抱えて悩み出す。
「何もそこまで考えなくても… 素直に言ってみて!?」
「さぁ…」
 散々悩んだあげくの答えがこれである。
 ホルテならずとも耳年増なら鉄拳の一つや二つは飛ばそうという
ものだ。
「えっ? あの子が『ちょっとアダルト仕様』だったことも何とも
思わないの? それはあんまりじゃない!?」
「はぁ、単なるガールスカウト時代からの友達というだけで…」
「ああっ! 嘆かわしい! 男と女が一つ屋根の下ずっと一緒だと
いうのに、何も感じないなんてっ!? それこそ不健全よ!」
 突然、ホルテの態度が一変した。
「幼なじみや妹だからって、遠慮することないのよ。そんなのはね、
おねーさんが何とかしてあげるから! だからきちんと打ち明けて
ごらんなさい!?」
「あのう、本当に違うんです。僕の話を」
 と、歩み寄ったその時…
「うわっ!」
 ビーム攻撃により、ジェイナスが激しく揺れる。
 ムニュ!
 スコットの辿り着いた場所は、大いなる谷間。
 まさしくそこは天国だった。
「ご、ごめんなさいっ!」
 慌てて離れると、頭を深々と下げる。
 大変礼儀正しい我らがキャップだが、おいしい思いをした事には
変わりない。
「いいのよ、別に… はっ! まさかっ!?」
 対して、ホルテの妄想はさらに加速する。
「まさか、やっぱりこの私に!? いけないわ! 私達はまだ知り
合って間がないというのに…!」
「は?」
「確かにこの歳にして未だ衰えることの知らないこの若さと美貌!
君のようなウブな男の子には強烈過ぎるかもしれないわね。でも、
あなたは地球人なのよ!? 親御さんが何といわれるかしら…?」
「あの…?」
「一応私の方からもお願いはしてみるけど。やはり駆け落ちという
のはいけないことだし… そうよ! 皆が不幸になってしまうもの!
でも、そんなことを年端もいかない少年に考えさせてしまうなんて、
私って、なんて罪な女なのかしら…」
「いやぁ、その…」
「全て、おねーさんに任せておきなさい! これでも数々の修羅場
をくぐり抜けてきたんですからね! 式場はどこがいいかしら? 
この前テレビで第13コロニーにいい教会があるって言ってたわね?」
 スコットは完全に返す言葉を失いつつあった。
 いくら美人のおねーさんとはいえ、このまま縁談が成立すれば、
一生ホルテの尻に敷かれることになってしまう。
 クレアの冷たい視線の意味、今頃理解しても遅い。
 そんなスコットの動揺に気付いたのか、はたまた自分の行く末を
あらためて案じただけなのか…
「いやね、冗談よ、冗談!」
 にっこり笑顔で話題を終わらせたホルテに、スコットは感激する!
「…そうか! そうだったんですね!? 素晴らしいジョークです!!」
 慌ててメモ専用モバイルギアを取り出し、しこたまメモを取る。
 うん! と頷くと、スコットは満足げに挨拶する。
「大変勉強になりました! では、失礼します! あっ…」
 一つ言い忘れたと、彼は振り返る。
「あの、お暇でしたら、これ聴いていてください。艦長からの差し
入れですので」
 スコットが自信たっぷりに渡したMDのレーベルは…
<スコット・ヘイワードジョーク集Part7>
 まったくもって「イイ男」である。

 北へ南へ東へ西へ…
 ルービンの小型艇は波状ビームの大群を必死にかいくぐっていく。
「へぇ、民間人もやるもんだな? 犬が西向きゃ尾は東っと」
 シャロンのすっかり他人事な感想に…
「ああ、見事な操縦だ」
 通り一遍なコメントしかできないロディ。
 スコットが復活して、やる気が失せたのかもしれない。
「サーカスで腕を積んだってことじゃないのか?」
 状況を全て把握していたバーツはさすがにコメントも鋭い。
 いや、多少毒づいてみたつもりなのかもしれない。
「あいつらの砲撃の腕が下手なだけだったりして」
 マキはバーツ程のコメントはできないようだ。
 そして…
「女スパイだって! 証拠だって…」
 やはりケンツ軍曹はいつも通りである。
「ほら、これ見ろよ! 俺が見つけたんだぜ! ほらっ!!」
「単なる偶然のくせによく言うぜ、ったく」
 呆れるバーツだが、やはり彼の言うことにも一理ある。
 そのケンツ御自慢の部品を、今ブリッジに来たばかりのスコット
が取り上げる。
「ホルテさんのことをそんな風に言うもんじゃないよ!」
「捕虜に『さん』づけはないだろ!?」
「美人だったしなぁ」
 ケンツとシャロンにつっかかられて、しどろもどろのキャップに、
バーツがしたり顔で詰め寄る。
「さっき二人で何話してたんだよ!?」
「何って… ジョークのことさ。彼女凄い才能の持ち主でね…」
「なぁんだ、俺はまたてっきりあの年増といーことしてたんじゃ
ねーかって思ってたけどな?」
「そんなわけないだろ! たとえ僕が憧れていたとしても… そう
そう、そのことでこんなジョークが…」
 転んでもジョークは手放さない。
 そんなスコットの熱心な説明を聞いても、バーツは首を横に振る。
「そりゃお前、我らがキャップ、偉大なる指導者である、スコット=
ヘイワードに気があるってことじゃねーの?」
「え? そ、そうかな?」
「間違いないな。ジョークってのもその場の照れ隠しさ」
 ここぞとばかりにロディも話に飛びついた。
「ほ、ほんとに?」
「ああ。だから自信持てよ、スコット!」
「わかったよ!」
 スコットを思いやるかに見えるロディだが…
 ふふっ! これでスコットが腑抜けになれば!
 …ジェイナスクルーは基本的に自分の事しか考えていないらしい。

「こちら難民保護組織ラピスのルービンです。読者にわかるよう、
地球語で交信します。貴艦が攻撃目標とされる地球艦には、二人の
赤ちゃんや子ども達を含む避難民が保護されている他、私達ラピス
のメンバーも人質になっています。直ちに攻撃を停止してください!」
 と、一通りのことを伝えると、ビーム攻撃はピタリとおさまった。
「ふふん! ざっとこんなもんよ!?」
 小型艇の操縦席で、してやったりのルービン。
 鼻歌混じりで化粧を直しているなど、誰が知る由もない。

「聞いただろ?」
 得意げに胸を張るスコット。やけに張りきっている。
「彼女の言う事に間違いなんかないんだっ!」
 一人うんうん頷くキャプテンの後ろで…
 かかったかかった!
 ロディもやけに嬉しそう。
 その不敵な笑顔など、誰が知る由もない。
「一人にしてるのか? 甘いっ! 俺が見張りに行ってくる!」
 ケンツの行動など、二人の目には入っていなかった。

「いや、我々も同胞の命には代えられませんからな」
 特殊任務を受けてジェイナスを追い続ける戦艦の中。
 艦長のルルドはルービンに対し、いかにも紳士的に対応していた。
 ホルテが人質になっていることも考慮しているようだった。
「では?」
「やむをえませんな。停戦に同意しましょう」
 化粧を変えたのが効いたのかしら?
 やけにルービンは上機嫌。
 何しろ、あのおんぼろ練習艦の少年兵の間では、オトコオンナで
通っているらしいのだ。
 あんなガきどもに大人の色気がわかってたまるものか!
 彼女も案外根に持つタイプだったらしい。
 その時…
「ただし、条件がある」
「?」
 ビクリッ! と背筋を激しく震わせるルービン。
 まさか条件を出されるとは思っていなかった。
 やはりただでは帰してもらえないか…
 しかし、私でいいのか?
 いや、私だからいいのか!
 そうか、そうだろうな。
 これは、アン=ホルテへの連絡はちょっと遅くなりそうね?
 何かを覚悟したように、ゆっくりと問いただす。
「…と、申しますと?」
「避難民と赤子の写真を送って欲しい」
 げげっ! 「私」じゃないの!?
 怒り心頭のルービン。
 無礼な「同胞」をカカトオトシで地に伏した。

「トイレ?」
 ケンツが聞き返すと、ホルテが少々ムキになって叫ぶ。
「この部屋にはないのよ?」
 そりゃそうだよな?
 このことを知らないケンツではない。
 仕方なくドアを開ける。
「トイレは向こうだ!」
「ブリッジは?」
「あっち! …関係ねーだろ!」
「じゃあ… これを見て? むんっ!」
 ケンツの目の前に、ホルテが右の拳を突き出す。
 左手は右の手首をしっかりとつかむ。
 並々ならぬ気合いを拳の中心に込めるホルテ。
 その気迫に、ケンツも息を呑む。
 なんだ!? 一体何が起こるってんだ!?
「むむむっ… ふんっ!」
 ポンッ!
 乾いた音と共に、彼女の右手から可憐な花一輪。
「はい、どうぞ!」
 にっこり微笑むホルテに流され、思わず手に花を受け取るケンツ。
 ん?
 ゆっくりホルテが手を引くと…
 ピロピロピロ…
 赤やら青やら派手で華やかな万国旗が、二人だけの空間を彩る。
 すげぇ…!
 素直に感心するケンツに、彼女は申し訳なさそうにささやく。
「今はこれくらいしかしてあげられないけど… しっつれい!」
 ポン、と背中を押されたケンツは、気がつけばホルテと逆の立場
になっていた。
「くっそぉ! 開けろ! せめてさっきの手品のタネあかしくらい
しろよぉ!!」

 部屋を出た理由は、どうやらスコットのジョーク集を聞き終えた
かららしい。新たな刺激を求めているのだ。
 というわけで、余裕しゃくしゃくで館内を歩くホルテ。
 その視線は定まらない。見るもの全てが新鮮なのだ。
 ばったりとジミー&メリーのコンビに出会っても、動揺無し。
「あら? 本当にヤギがいたのね?」
 逆に、ククトヤギをなでなでするホルテ。
「かわいいわね! ブリッジはどこ?」
 動物好きに悪い人はいない…
 ジミーは直観的にそう感じとると、指をブリッジの方へ向けた。
「ありがと。ついでに聞くけど、おねーさん、綺麗?」
 ホルテは自信たっぷりに、顔を思いきり少年に近づける。
「綺麗? ねぇ、綺麗?」
「あ、あの、ぼく…」
「綺麗よねっ!? ねっ!?」
 勢いに圧倒され、思わずうなずくジミー。
「そう!? ありがと!!」
 手を振ってこの場を去るおねーさん。
「あ、あの…」
 この後、事態に釈然とせず、彼女を呼び止めるために、ジミーが
思わず口にした言葉は、聞こえなくて正解だったと言える。

 動物を扱うなんて、ちょろいちょろい!
 もう思惑通りに事が運び過ぎて怖いくらいのホルテ。
 彼女にとってはジミーも動物で一括りらしい。
 でも、ブリッジなんて見当たらないわね…?
 道に迷ったのかしら?
 誰かに聞きたくても、誰もいないし、やっぱり変よ、この艦?
 ん? ここは…!?

「あの胸のでっけーねーちゃん、戻ってこねーな?」
 ブリッジの片隅。ロディとバーツは小声で話していた。
 何故なら、大声で「胸のでっけー」等と言おうものなら…
「不潔よ!」
「あなたたちは立派な変態だわっ!」
「セクハラです!」
「サイテー」
「オレは別にどーでもいいけどなぁ」
「シュッシュッポッポ! とうちゃく〜!」
と、発言に対しての公式な場での謝罪を求められるからである。
 現に少し前、同様の会話でクレアやマキから、胃に穴が開く程の
追及を受けたのである。
 やっぱ俺、政治家には向いてねーな。
 話戻って、ロディは未だに納得できないらしい。
 ひそひそ話が続く。
「なあ、バーツ。それ、ほんとか?」
「絶対あのオトコオンナの方が胸がデカい!」
「本当に本当なのか? あのオバサンも結構あるぞ?」
「くどい! 俺の目が信じられねーのか!? じゃあ後で確かめて
やる!」
「どうやってだ!?」
「それはだなぁ…」
「子ども達がそんな話題に明け暮れてちゃいけないわね」
「うわっ!!」
 ロディ・バーツ共にのけぞる。
 二人の後ろには、その「オバサン」がいたりする。
「ど、どうしてここにっ!?」
「ケンツのやつ、何やってんだっ!?」
「二人とも、ちょっとこっちにいらっしゃい!」
「は、はい…」
 連れて行かれる二人の後ろ姿が情けない。
「これ、読んでたでしょ?」
 ゲゲッ!? ロディがありきたりに驚く。
 なんで年増がこれを…!? バーツも今回はありきたりに驚く。
 彼女の手には、購買部でしか手に入らないモノがあった。
「こーゆーものにはまだ早いんじゃない?」
「そ、そんなことは… なぁ、ロディ!」
「そうです! 僕達、身も心も立派な大人です!」
 いや、そーゆー意味じゃなくて…
 ホルテは顔を赤らめながらも、言うべきことははっきり言った。
「保護者・責任者にちゃんと連絡します。艦内の規律が乱れ過ぎて
いるものね! PTAにも問題を取り上げてもらうから覚悟なさい! 
で、艦長さんはどちら?」
 気まずい雰囲気の二人の横に、ふらりと現れたマルロとルチーナ。
 聞かれてもいないのに元気良く答える。
「軍人さんいないの!」
「いないの!」
 マルロに感化されてルチーナまで… 見事な先読みぶりである。
「いないって… まさか子ども達だけってこと?」
「そうよ、おばちゃん!」
「お、おばちゃん!?」
 い、いや、この子から見たらそうに違いないわ。
 ここで頭に来てはいけないわ。冷静にならなければ!
 でも…
 おばちゃんおばちゃんって! 私そんな歳じゃないわっ!!
 それに胸は私の方が大きいのよっ!!
 大体「ヒステリックババァ」って誰の事よっ!?
 …ああ、やっぱり駄目だわ!
「泣かせてくださーいっ!!」
 ぎゅっとおチビさんを抱きしめ、涙腺全開で号泣するホルテ。
 マルロとルチーナは「このおばちゃん、きっとつかれてるんだね?」
と、大人の態度を見せる。

「ボギー、みやげものチェックだ」
「『鹿のふん』が三袋あります」
「…それ以外は?」
「ありません」
「ちぇっ、シケてんな。ククトみやげくらい…」
 愚痴をこぼすケンツを横目に、ルービンは自分から捕虜に対する
必須行為を申し出た。
「ボディチェックはしないの?」
 おおっ! ここでのボディチェック、まさに予定通りだっ!
 願ったり叶ったりのバーツ。断る理由がないのだ。
「そりゃもう当然…!」
<<バーツっ!!>>
 止めたのは誰あろう、彼の無二の親友である。
 さっき言ってた確かめるってのがこれだなんて!
 抜けがけは許さないぞっ!
 主人公は俺だっ!!
<<よせ、バーツっ!!!>>
 館内放送に込められた異常なまでの想いが、バーツの行動を止め
させる。
「…暇があったら、ゆっくりと」
 顔で笑って心で泣いて…
 肩をすくめるバーツ。今ほどロディを恨んだことはない。

「さあ、この艦を出るのです! 私達の胸に飛び込んできて下さい!」
「ああ、サーカス入団? また今度ね!」
 ホルテ達は言いたい事を言ってすっきりし、ジェイナスクルーは
きっぱり断ってすっきり。
 だが、すっきりしない人が約一名…

「どうしてみんなこうなんだ!? せっかくの就職先だというのに!
 それにしても、本当にホルテさんは僕の事を… ムフッ! ああ、
 いかんいかん。久しぶりにまともに話せるナレーションでこれじゃ、
 僕の人気が落ちてしまう! でも、これからは僕とホルテさんの
 素晴らしいラブストーリーが展開されるんだから、人気が落ちる
 なんてことは絶対にないよね! あははっ!」