<正しいスコット13>

 太陽がまぶしければ、それだけで気分が爽やかになるというわけではない。
「やっこさん、またやってんのか?」
「ほんと、大したもんだよ…」
 バーツの問いかけに対する、ロディの独り言にも似たつぶやきは、トラックの荷台へ向けて張り切って指示を飛ばすスコットに向けられた言葉である。
「ねぇ、スコットさん、やっぱり昨日とおんなじだよ?」
「そうか、よしよし。あ、予備の分もちゃんとチェックしておいてくれよ?」
 マメさが光る的確な指示だが、言われたフレッドばかりではなく、実は誰もが辟易していた。
「あーあ、アタイ、こーゆーのって無駄だと思うけどなぁ?」
「食糧や他の積み荷のチェックはとっても大事なことじゃないか!」
「だけどさぁ、昨日の夜と今朝とじゃそんなに変わらないって! 一日1回で充分じゃないのかなぁ!?」
 というマキの意見にも、全く耳を貸さない。
 スコットは引き続き、マキに荷物のチェックを、フレッドには食糧のチェックを行わせる。
 その一部始終を見ての、ロディとバーツのつぶやきだったのである。
「ちょっと心配し過ぎなんじゃねーのか? ありゃ異常だぜ?」
「このタウトに降りてからずっとだ。あ、クレア、君もそう思うだろう?」
「そうね、また倒れたりしなきゃいいんだけど…」
 その、意気消沈した年長組の会話を、小耳に挟んだ者がいた。

 夕食の片づけが終わった頃、カチュアがトラックの荷台に上がった。さすがに手際良く荷物のチェックを行なう。
 ふと、人の気配を感じ、懐中電灯を荷台の端へ向ける。
「ま、まぶしい…」
「ごめんなさい、スコットさん」
「いや、いいんだ。それよりカチュア、今回のチェックは僕が代わるよ」
「いえ、当番は当番だから、ちゃんとやります」
「そうかい? じゃあ、とりあえず僕も手伝うよ。それでいいだろう?」
 トラックの荷台に入ってきたスコットはふと振り返り、少し離れたところで焚き木を囲んでリラックスしている仲間達を見つめた後、カチュアに問いかけた。
「君は文句も言わずにこのチェックをやってくれているけど、みんなと同じ意見じゃないのかい? 当番制にしておいて、君の当番だけうまくペアに割り振れなかったのは僕の責任だし、チェックの回数も多過ぎるかもしれない」
「あ、あの…」
「…そう、ずっと思ってるんだ。『本当にこれでいいんだろうか?』って。そうなんだ、この旅が始まったときから、今も、ずっと」
 黙々と作業を続けてはいるが、彼女も当然聞き耳はたてていた。
「もちろん、父さんや母さんに逢いたい、その気持ちが変わるはずはないさ。いや、日増しに強くなっていく。だけど、本当に僕達だけで出来ることなんだろうか? 軍隊だって出来なかったことを、みんなだけで無事にやりとげられるのだろうか? やらなくちゃいけないのはわかってるけど、自信があるとも言えない、言えるわけないんだ…」
 頭を抱えるスコット。
「でも、ジェイナスだって私達だけで動かして…」
 薄暗い荷台の中でもわかるそのシルエットに、カチュアは優しい言葉をかけようとしたが、彼の嘆きが遮る。
「確かにそうだ。ボギーの力を借りてはいたけど、まぎれもなく僕達だけで動かしてきたさ。だけど、その次も僕達だけで解決出来るのかどうかなんて、誰にもわからないことなんだ。やっぱりジェイナスで地球へ向かうか、地球軍、あるいはラピスの保護を受けていた方がよかったんじゃないだろうか?」
 作業を続けながら黙って聞くしかないカチュアに対して、スコットの言葉はまだ終わらなかった。
「食糧も充分持ってきたとはいえ無限にあるわけじゃない。下手をすればこのタウトからずっと脱出できない可能性だってある」
「スコットさん…」
「そうさ、あのじいさんの話をまともに信じた僕が…」
 結局、彼はその事をずっと後悔し続けていたのだ。
 両親どころか人影すらないククト軍施設、壊れて脱出できないシャトル、降り立った直後に別れてから一向に見つからない謎の老夫婦…
 この危機的状況は自分の誤った判断が原因… 特に責任感のある彼には、その事が堪えられなかったのだ。
「この先も僕の軽率な判断が元でみんなを危険な目に遭わせてしまうことがあるかもしれないと思うと… 本当に、僕はこれからどうすればいいのか、わからなくなってきた」
 そこまで言い終わった時、フッと、懐中電灯の明かりが消える。
「私、今まで通りでいいと思います」
 彼自身としては意外だった言葉に、驚くスコット。
「えっ? あ、あの、カチュア…?」
「今回は偶然こういうことになってしまったけれど、スコットさんの判断は間違ってない、と言うとちょっと違うかも… 言い換えると、私が同じ立場でも、きっと同じようにこの星に来たと思います」
 彼女の自信たっぷりの言葉に圧倒されるスコット、言葉を挟むことができない。
「パパやママと無事再会できることと、私達自身の安全を、常に正しいハカリにかけているからこそ、より慎重な行動を選ぶことになるのを、私達はみんな知っています。今回、敢えてこのタウト星を選んだのも、きっとスコットさんの持つ正しいハカリがそう判断したから、みんなそう信じてます」
 チェック作業が終わったらしく、彼女はいつの間にか荷台の端に移動していた。
「でも、三食毎の食糧チェックは必要ないと思いますけど」
 と、にっこり笑いながら提案したカチュアは、すっとトラックを降りていった。
 そうだね、もう少しみんなを頼ってもいいんだ。
 もちろん、仲間を信頼していなかったわけじゃないけど、でも、自分の過ちの責任を自分だけで取ることができる、そういう思い上がりが心のどこかにあったのかもしれない。
 スコットはこのトラックの荷台の中で、ある一つの考えを巡らせるに至った。

「みんな起きてるか? ちょっと聞いてくれ。毎日荷物のチェックしてくれてたけど、今日で…」
 朝食後、一念発起でみんなに提案しようとしたその矢先。
「ケンツ! 何度言ったらわかるのよ! ハムだってそんなに数があるわけじゃないのよ!!」
 食事の後片付け中だったクレアの怒号が、彼の重大発表をストップさせたのだ。
「だってあれだけじゃ絶対足りねーって! 育ち盛りをなめんじゃねーよっ!!」
 ああ、一晩かかって決めたのに!
 やっぱりチェックは毎回必要なんじゃないのか!?
 スコットの頭痛は、どうやら寝不足だけが原因ではないらしい。

 終わり