<銀河海賊物語>
「計器類異常無し! エンジン臨界点の50%で正常動作中!」
「キャプテン、いい加減座ってなよ!」
どうみてもクルーに注意されている。
「アタイ、そーゆーうるさいのは嫌いなの!」
「いーだろ! これくらいやんねーと気分出ねーじゃんか!」
「ばーか、ケツが青いくせに、えばってんじゃねーよ!」
このキャプテン、どうやらかなりクルーにナメられているらしい。
「なぁ、今この辺に獲物になりそうなやつはいるか?」
「んなもんいるわけねーじゃん! みんなダンゴくってるよ!」
「そうだよ。今日は十五夜、みんな地球にお月見詣でさ。あんたそんなことも知らないの?」
「あーしらねーよ! 悪かったな!! ったく、なんだっつーんだよ…」
かなり頭に来たらしいキャプテン、狭いブリッジを出て自室に戻ろうとした。
その時…
「うわっ!」
キャプテンは、近くに爆発でもあったかのような、強烈な衝撃を受け、ブリッジへと舞い戻ってしまった。
狭いといったら狭いブリッジ。キャプテンも何かに当たるのは仕方のないところだが…
「いてっ! おいこらキャプテンてめーナニすんだよ!?」
「ってて… ふぅ。じゃねえ! お前こそ痛がってないでさっさと今のショックの原因調べろよっ!」
「何だとぉ! ケツが青いくせにオレとやろうってのか!?」
「うるせーこのペチャパイ!」
「てめー、言ってはならないことを!」
「どっちが先に言い出したんだよ!」
「やめなって二人とも!」
もう一人のクルーはいたって冷静。
いつもならこの二人の喧嘩を結構面白がってみているところだが、ちょっと状況が悪いようだ。
彼らは今、一仕事終えてとあるスペースコロニーへ帰る途中だった。
おんぼろ高速艇「ニュートロン」も、その形容詞以上にボロボロになっていた。
食糧は底をついている。燃料だって残り少ない。
キャプテン以下クルー3名が苛立つのも無理ないというものだ。
いや、彼らはいつだってこの調子なのだが…
でもって、一体何がキャプテンを狭い狭いブリッジで暴れさせたのか…
そう、実はこんなにのんびり解説している場合ではなかった。
「ま、まさか… あれ!」
クルー一同首を左へ向ける。
「うわっ、わわっ、わーっ!!」
「な、なんだコリャ!?」
彼らが目にしたものは、奇妙な形?の巨大宇宙船だった。
ニアミスどころではない。
どうやら左舷後方からこの高速艇へ衝突してきたらしい。
その時の衝撃が、キャプテンの宇宙遊泳のきっかけだったらしい。
「な、なんでこんな… 居眠り運転か!?」
驚くキャプテンだが、騒ぐ前に気付けよなぁ、君達…
「エンジン出力正常」
「コースもオールクリアです」
ブリッジにこだまするクルー達の声。
「よし、そのまま通常巡航速度を保って」
「はい」
「じゃあ、後は任せるよ。ちょっと疲れたんでね」
そう言うが早いか、キャップは肩の荷がおりたとばかり、コップを持って艦長席から離れる。
と、その時…
「うわっ!!」
ブリッジがちょっと揺れた。そう、ちょっと揺れただけである。
では、何故キャップは大騒ぎしたのか?
今手にしているコップ、先程はほぼいっぱいになるまでコーヒーが入っていた、それが答えである。
「あーあ、替えのズボンもうないんだけどなぁ…」
「キャップ、ショックの原因がわかりました!」
「前方に小型艇がぶつかったようです!」
さらりとのたまう女性クルーに、キャップは怒りの矛先を向けた。
「さっきコースはオールクリアって言ったのは君じゃないか!?」
「確かに先程はオールクリアでした。でも、現実は違った… それだけの事です!」
「そ、そんなこと言われてもなぁ…」
逆に詰め寄られ、頼りなさげに答えるしかないキャップ。
「と、とにかく、あっちの小型艇にちょっと通告しておこう。マイクを」
高速艇「ニュートロン」では相変わらず不毛な争いが続いていた。
「だからよぉ、どうやってここを抜けるか、なんだよ!」
「そんなの決まってんジャン! いつもみてーに…」
「バーカ、相手がデカすぎるって! 変な形だしよぉ!」
「あんなぁ、バカはねーだろバカは!?」
もめるキャプテン達に割って入るクルーその1。
「ちょっと待って! あちらさんからマイク来るよ!」
<<あー、あー、そこの勝手にぶつかってきた小型艇、聞こえているかい!?>>
のらりくらりとした口調のためか、こちらも怒りが頂点に達したようだ。
「ぶつかってきたのはそっちじゃねーか!! こっちもマイクだ!」
<<あのなぁ! てめえ、この高速艇が泣く子も黙る海賊船『ニュートロン』と知ってのことか!?>>
「何だ? 随分な言い草だなぁ…」
キャップの表情は少しずつ苛立ちの色をましていく。
「あのねぇ、そっちこそ、この船が鬼も逃げ出す海賊船『ジェイナス』だって知ってて言ってんの!?」
<<やかましい! てめーらどこの三流海賊かしらねーけどな! ここは俺たちの縄張りなんだよ! とっとと出て行け!!>>
こんな言い分を語る方もどうかと思うが、乗る方はもっとどうかと思う。
「何をっ!? それじゃどこに線が引いてあるっていうんだ!? あそこか? ここか? 立て看板の一つもあるんだろうなっ!?」
はぁはぁと息を荒げるキャップの元へ、別のクルーがやってきた。
「親分、どうした?」
「そう呼ぶなっていつも言ってるだろ! それより仕事だ。やつらを叩きのめしてくれ!」
「あっ! やつら、RV出してきやがった!」
ブリッジの窓の外には赤いRVと白っぽい?けど紺色っぽいRVが腕組みしている。
「んーなの見りゃわかるジャン?」
クルーの冷たい相槌に苦虫をかみつぶす「ニュートロン」キャプテン。
<<おーい、聞こえるか!?>>
いきなり入ってきた通信と共に、赤い方がブリッジへ向かって手を振っている。
<<なぁ、やっぱやめといた方が…>>
赤いRVとブリッジの間に割ってはいる紺色RV。
<<何言ってんだ? ここまで来たら一蓮托生、俺っちに付き合えよ!>>
<<でも、いくら不景気だからって、海賊はマズイんじゃないか?>>
そんな事情は知ったことではないが…
何やら目の前で繰り広げられる言い合いを、とりあえずは黙って聞く事にした。
<<それならお前、いい儲け口見つけて来いよ!>>
赤いRVが相手のRVの目の前で拳を握り締める。
<<何ぃ! 元はと言えばお前がパチンコで一ヶ月分の食費全部つぎ込んだのが悪いんじゃないのか!?>>
紺色RVが相手RVの胸に指を差す。
<<たまたま増えなかっただけさ。細かいこといちいち気にしてんじゃねーよ!>>
<<使うなら自分の分だけにすればよかったんだ! それを、俺の分まで…>>
<<なんだと!? あのビルの窓拭きのバイト世話したの誰だと思ってるんだ!?>>
<<だからって、人の給料まで使っていいなんてことがあるのか!?>>
<<くそっ! やるか!?>>
<<望むところだっ!!>>
一触即発、今にもクロスカウンターが飛び出しそうな緊迫した雰囲気…
「おい、今のうちに離れちまおうぜ?」
<<そうは行くかっ!!>>
せっかくの逃亡のチャンスを赤いRVに気付かれる。
<<そうだ! こいつらに逃げられたら俺達の生活が!!>>
あまりに生々しい告白が、「ニュートロン」号の足を止める。
もう嫌になってきた…
やる気の失せたキャプテン。取り引きでも応じようとしたその途端…
<<そういえば、RV出て来ないな?>>
<<へっ! 弱虫だな、このボロ船のキャプテン。ケツが青いんじゃねーのか!?>>
カチンッ!
顔を真っ赤にするキャプテン。当然といえば当然の反応か。
「くそっ! 黙ってりゃ言いたい放題言いやがってっ! よぉし、こっちも応戦だ!!」
「あ、アタイも行くよ!」
「来るな!! やつらは俺一人で…」
「二人乗りなんだから、キャプテン一人じゃ駄目だってば」
「ああっ! オレは!? なぁ、オレはどうすんだよ!? …って、またいつもの留守番か」
暇そうなクルーその2は、足でボタンを一つ押した。
「ちくしょーこのやろー! 出てきてやったぞ! とっとと勝負でも何でもしろってんだ!」
確かにキャプテンの言う通り、二人乗りの青いRVが高速艇のコンテナ部分から姿を現した。
だが、それ以上に、彼のはりきり様は尋常ではない。
「こんにゃろー! おめーらぎったぎったにしてやっからなっ!!」
「もう、うるさいよ、キャプテン!」
「だって、だって、あいつらがよぉ…!」
「わかったから! ほら、鼻かみなよ」
ちーん…
<<そっちのも聞こえてるぜ?>>
その通信を聞いて、急に恥ずかしがる二人。
さっきのもあいつらこんな気分だったのか…?
そりゃそうだ。鼻をかむ音まで聞こえてたなど、海賊としてあるまじき行為だ。
反省しきりのキャプテンをよそに、赤い方のRVが腕を組む。
<<ふぅん、女か… いい度胸してんじゃねーか>>
カチン!
「なんだって!?」
<<女のくせにいい度胸してるって言ったのさ!>>
<<お、おい、やめろよ!>>
<<ばーか、誉めてんだよ、一応な!>>
「バカ言うんじゃないよ! これでもアタイは先週だけで10人もの男を病院送りにしてるんだよ!?」
「ほんとか!? 知らなかったぜ…」
「キャプテンは黙ってて! あんたこそそんな旧式RVで、アタイ達とやりあえると思ってんの!?」
<<何ぃ! 二人乗りと一緒にすんじゃねー!!>>
今度はこっちか…
キャプテンも紺色のRVの操縦者も頭を抱えるばかり。
そして10分の後…
<<くそっ! 埒があかねえ! こうなったら勝負だ!!>>
「望むところ!」
その時、赤いRVが背中に手を回す!
「まずいぜ! やつら、いきなり飛び道具だ!!」
「キャプテンがモタモタしてるから!」
「何言ってんだよ! お前があいつとゴチャゴチャもめてたからじゃんか!!」
<<いくぜっ!!>>
「うわっ!」
やられる、と思った途端…
<<ほら、そっち持てよ!>>
赤いRVが取り出したのは、やけにメタリック感溢れる唐獅子模様の風呂敷だった。
「は?」
<<いいからそっち持て! お前もな!>>
<<お、おい、またアレやるのか?>>
<<白黒つけるにはこいつが一番いーんだよ!>>
<<ちぇっ、わかったよ>>
青いRVと紺色RVが揃って同じように風呂敷を宇宙上に広げた。
<<どちらさんもおひかえなすって!>>
「はぁ?」
こちら、青いRVの二人は唖然とするばかり。
「何だよこれ?」
「さぁ… 磁力反応があるみたいだけど?」
「磁力って、まさか、俺達のRVを強力な磁力線で操作不能に…」
「だったら、あっちのRVだっておかしくなるんじゃない?」
「それもそうだなぁ… あ、あれはなんだ!?」
キャプテンの差す指の先、赤いRVが手に持つものは…
「あいつら、カブやろうってのか!?」
色とりどりの絵が描かれたカード、
正確にはオイチョカブである。
目の前にカードが配られた。
なるほど、磁力でカードを風呂敷にくっつけているようだ。
「よーし、やってやる! 俺だって海賊のはしくれだ!」
<実はこれ書いてるやつはルール知らないので戦闘シーン省略>
3時間経過。
「やるな、お前!」
<<そっちこそな! くそっ! 帰るぜ!!>>
<<お、おい、いいのか…!?>>
<<これ以上やったってらちがあかねえからな!!>>
赤と紺のRVは風呂敷もたたまずに帰っていった。
「へっ! だらしねえなぁ!」
「冗談じゃないよ、キャプテン! どんなに疲れたかわかってんの!?」
大体、両陣営共体力が持たないようである。
3時間も、しかもRVでカードをめくるのである。
細かい指の動作にはとてつもなく気を遣う。それも、相手に見せないようにめくるのだから、神経の負担は相当なものだ。
<<やい、三流海賊野郎さん! 聞こえるか!?>>
あっちのキャプテン、やけに言葉づかいが変だな!?
そう思うこっちのキャプテン。だが三流海賊扱いされたのは確かだ。
「やかましい! 聞こえてるっての!!」
<<そうか、それなら結構。とにかく、最後は砲撃戦で勝負だ!>>
「お、おおっ! 望むところだっ!!」
「お、いっちょまえに帰ってきたんか?」
クルーその2のお出迎えにゲンコツで答えるキャプテン。
「ってて! なーにすんだよ!」
「うるせえ! 何もしてなかったくせに!」
「あんだとぉ! ここに置いてけぼりでどうしろってんだよ!」
それもそうである。
「にゃろー! 負けられっかよ!」
勝手に矛先を変え、キャプテンが燃える!
「アタイだって、あんな花札野郎になんか負けられないよっ!!」
腕が疲れたクルーその1も燃える!
「オレ、別に負けてもいいけどよぉ?」
何もしてないクルーその2は萎える…
「あのなぁ!」
「わーったよ、主砲撃つんだろ!?」
「おうっ! あったぼうよぉ! 結局海賊の勝負は戦艦の主砲だい!!」
「これ戦艦か?」
「黙って作業しろよ!」
「へいへい。エネルギー充填率45%! 圧力上昇!」
「対ショック・対閃光防御!!」
「そんなもん要らないだろ!?」
「見て! 敵艦が動き出したわ!」
「あっちも主砲を撃ってくるんだぜ!」
「カウンター用意!」
この言葉を聞いたクルー2人の間に緊張が走る!
「発射!!」
2つの艦は、ほぼ同時に主砲を放った!
漆黒の宇宙がまばゆいばかりに白く輝く!
白く、白く…
?
よく見ると、それらはエネルギー弾でも実弾でもない。
紙飛行機である。
「カウント開始!!」
キャプテンの号令により、クルー二人が双眼鏡を手に紙飛行機を数える。
「キャプテン! うちのは200423個だよ!」
「あっちのは189391個だぜ!」
「よっしゃ、勝った!」
どうやら紙飛行機を一度にどれだけ飛ばせるかで決着がつくらしい。
<<くそっ! お、おぼえてろよ!>>
変な形の船は仕方なくこの場を去った。
こうして、「ニュートロン」のクルーはおびただしい数の紙飛行機をばらまいたため、航路妨害として、航路交通法違反でしょっぴかれることになる。
これもまた海賊としての運命であった…
「銀河海賊物語」これにて一巻の終わり。