怪盗カチュア 華麗に見参!
1.これが彼女の平凡な一日
ガタン!
いや、別に普通に扉が開いたわけじゃない。
これは扉が外れた音である。
「行ってきまーす! 遅くなるから、晩御飯は先に食べててね!」
同居人へ精一杯の大声で叫びながら、ボロアパートの玄関を出る
少女。現代人とは思えない程、朝からなかなか元気がいい。
だからといって、彼女のせいで扉が外れたわけではない。
か弱き少女の力でも外れてしまう木製扉。それだけのことだった。
さて、その(一応)至って普通な女の子。
紺のブレザーに真紅のリボン、淡いグレーのスカートがなかなか
キマっている。
彼女の名前はカチュア=ピアスン。
少々広めのおでこがかわいくて…
「ちょっとっ! 作者さん、何言ってるのっ!?」
ご、ごめんなさい(気にしてたのね…)。
とにかく、彼女が本編の主人公であるのは間違いない。
小高い丘を駆けあがると、そこにはバス停があった。
彼女はこの場所が大好きである。
何故かって? それは…
一日のうちで、誰よりも早く「あの人」に会える場所だから。
「先輩!」
どう考えても今朝一番の大声で、彼女は男子生徒を呼んだ。
紺のブレザーに真紅のネクタイ、おまけにグレーのスラックス。
カチュアとお揃い? それも当然。
同じ学校の制服なのだから。
「やあ、カチュア!」
気さくに声をかけてくるのが彼のいいところでありサッカー部の
エースストライカーであること、さらに顔も可愛いとあって、学校
でも特に人気も高い。
名前はロディ=シャッフル。
そう、彼こそが、何を隠そうカチュアの片想いの人だったりする。
私立アゾレック学園中等部三年生。ちなみにカチュアは一年生。
というわけで、高嶺の花だったりする。やめときゃいいのに…
「あなたちょっとうるさいわよ!?」
ど、どうも、失礼しました。
それはそれとして、鼻歌混じりでやたらご機嫌のカチュア。
「ロディ先輩、ダンパにはどんな服装でいらっしゃるんですか?」
ダンパとは、中等部伝統の春休みダンスパーティーのことである。
リンボーダンスにフラダンス、アワダンスからボンダンス、ヒゲ
ダンスに至るまで、多種多様な踊りを踊り続けながら一夜を過ごす。
要するに若さゆえの過ちである。
「そうだなぁ… カウボーイの格好がいいかな?」
今時そんな格好を選ぶやつの気がしれないが…
「素敵ぃ! 私、きっとそれに似合う貴婦人の衣装を用意しますわ!」
あばたもえくぼ。モーレツに迫るカチュアに、ロディはたじたじ。
「いや、別に君が合わせる必要は…」
「張り切って探さなくちゃ!」
ある意味、何ともけなげな少女だったりする。
さてさて、学校に着いてしまった二人。
「そ、それじゃあ…」
校門をくぐると、ロディはそそくさと下駄箱へ走り去る。
「あ、先輩!」
そりゃ学年が違えば校舎も違う。
はぁ… ため息ひとつ。
カチュアも仕方なく下駄箱の方へと歩く。
だが、朝から晩までそのままでは済まされない。
別にダンパに限らない。学園生活というものは、毎日が何らかの
イベントや苦難の連続だったりする。
ほら、今日も…
「おはよう、ビンボー少女のカチュア!」
気さくに声をかけてくる割には、ひどいセリフ。
「おはよう…」
声は小さいが、決して気落ちしているのではない。
本当に、実に、会いたくない人に会ってしまったわ…!
つい先程まで果てしなき心の奥底に封印されていた野生の血。
それを抑えるための我慢である。
「元気ないわね、ビンボー少女のカチュア!」
「あなたほどじゃないわ…」
眉をピクピクと動かしながら必死に答えるカチュア。
「あ〜ら、ビンボー少女のカチュア、あなた今度のダンパにどんな
格好でいらっしゃるのかしら? ビンボーな方の正装って興味ある
のよ! ほんと、楽しみだわ!!」
ここまで露骨にからんできた彼女はペンチ=イライザ。
カチュアの同級生である。
ちなみに、カチュアは一応11歳、ペンチは10歳である。
ロディが14歳であることを考えると彼女たちは揃って「初等部」
の生徒のはずである。
では何故「中等部」にいるのか?
片やカチュア。頭脳明晰での飛び級というからすごい。
ビンボーが生み出した究極の財産、知力・体力・時の運は彼女の
評価を2歳程上回らせていた。
ただし実年齢は本人にもわからないらしい。案外歳相応だったり
して。
「いい加減にしてください! 私は11歳でいいんですっ!!」
はいはい、そーでしょーね。
片やペンチ。彼女の場合は財力によるものである。
イライザ財閥はベルウィックでも一・二を争う大財閥。お嬢様が
ちんたら初等部などにはいってられないということらしい。
なお、ペンチの数多いボーイフレンドのひとりで、かつロディの
弟であるフレッドは、地道に初等部で勉学に励んでいる。
ま、結構な身分ということだ。金で買う実力もまたおつなもので。
「あなたね! 言いがかりはやめてもらえません!?」
なんもそんな青筋立てて怒らんでも…
「そうそう、カチュア、あなた『ピエロの角』はご覧になりました?
あ、ビンボーなあなたのことだから、きっとアゾレック美術館にも
入ることすらできなかったのね? ごめんなさい」
ニヤニヤ笑いながらのペンチのセリフは一言一言がカチュアの胸
を貫く。
だが、負けてはいられない。それは、持って生まれた彼女の芯の
強さからくる激しい対抗心がなせる業だった。
「『ピエロの角』って、何のこと!?」
してやったり! コロコロお笑いになるペンチ。
「そんなことも知らないの!? これだからビンボーな人って…
あのね、『ピエロの角』っていうのは、ヘイワード家に代々伝わる
幻の秘宝で、アゾレック美術館創立400年を記念して特別に展示
なさってるものなのよ?」
ふ〜ん、「ピエロの角」ねぇ…
何故かこの時、カチュアの顔は自信に満ちた笑顔に変わっていた。