アルバイト大作戦!〜そういえば、詩歌は? 「うへえ…」 「あちい…」  夜10時。工事現場にいる高校生二人。  圭太と潤一郎は、揃いも揃って同じような事を口走っている。 「信州は涼しくてよかったなあ…」 「ほんとだぜ… ったく、このうだるような暑さっつったらもう… しゃあねえじゃすまねえなぁ…」  二人は相変わらずパイプを運んでいた。 「ほら、もっと腰入れて運ばんかい!」 「わぁーってるよ!」  一ヶ月以上一緒に仕事をしていると、現場の雰囲気もよくわかる。  その上で、いわゆるタメ口も出来るようになっていた。  慣れたせいか、それとも、合っているせいなのか。  こういう力仕事の単純労働って、向いてんのかな…?  就職先候補として、真剣に考えつつある圭太だった。 「お前ら、昼間は弓の練習もやってたんだろ? ご苦労さんなこっ たなあ!」 「ま、学校には黙っててやるからよ。またやりたくなったら来いや?」 「そおそお、ビシバシこきつかってやっからよ!」 「じゃあお疲れさん。はい、バイト代」  気さくな会話が、熱帯夜の暑さをほんの少しやわらげた、そんな アルバイト最終日。 「またな! 坊主ども!」 「こんなに集めちゃっていいのかな、僕達…」  34万2420円。  圭太達4人のバイト代は、いつの間にかこんな大金になっていた。 「ったく、しゃあねえなあ… ちょっと多いんなら、俺がもらって やろうか?」 「ばかじゅん… じゃあ、あんず。これ」 「はい」  これまたいつの間にか、会計役になっている杏子だった。 「ねえ、圭太… あたしも、これ…」  自信家の詩歌にしては珍しく、申し訳なさそうにうつむきながら そっと手を出す。 「なんだよ? お前、バイトしてなかっただろ? いいよ。受け取 れねえって、そういうお金は…」 「何なら俺がもらってやろうか?」 「ばかじゅん… 会話がパターン化してるぞ…」  あまりに幼稚な相棒の台詞に、ただただ呆れる圭太だった。  そのかげで、小さく小さく胸を痛める詩歌。  あたしだって、バイトしたかったけど、けど…。  弓の初体験の興奮もどこへやら。  彼女の脳裏にそんな思いが駆け巡っていることを、他のメンバー は知らない。  こうして弓道同好会にとって初めての、長い長い夏休みは終わろ うとしていた。  宿題休みとしてとっていた3日間は、皆思い思いに過ごしたこと だろう。