華麗なる模範演技 「じゃあ、私、一本だけ、矢を射ってみますね…?」  辺りに暗闇が訪れた頃、杏子が突然弓矢を手にした。 「的もないのに?」 「はい、あると思えば、大丈夫です」  麗の心配を自信たっぷりに打ち消して、杏子がベニヤ板の上に立っ た。  慌ててその場を離れる圭太と潤一郎。  麗と詩歌も邪魔にならないように離れた。  右手にかけをつけると、弓矢を手にする。  制服のリボンだけを取り去り、すっと構えると、自然と左手の弓、 右手の矢が一つになる。  軽く肩幅に両足を開くと、視線を土手…これからあずちと呼ぶそ の場所へゆっくりと移す。  息の乱れを全く感じさせない優美で華麗な模範演技が続く。  つがえた矢をかけで抑え込み、ゆっくりと弓を持ち上げる。  高く上がった弓の先は、地上から3m以上にもなる。  ゆっくりと弓を引いていく。  ピタリと止まった瞬間、弓は彼女の両腕で完全に押し開かれた状 態になっていた。  永遠の時間とも思われた。  カッ!  だが、矢が放たれる瞬間は、ほんの一瞬である。  弓の弦が裏返って、矢は勢い良くあずちに吸い込まれていく。  ザクッ!  当然だが、土の音がする。  矢があずちに刺さったのだ。 「いい音だと、思います」  ゆっくりと射終わった後の射礼を終えると、そそくさとあずちの 方へ歩み寄る。  当然、他の4人も後を追う。  あずちには、見事な程に杏子の放った矢が刺さっていた。  地面に、水平より少しだけ矢の先が下に傾いている。 「これは正常な矢の刺さり方ですわ。弱いあずちだと、この羽根の ついた後ろの方が地面に近く、下に傾くこともありますから」  あずちについては、杏子も満足の出来だということだ。 「ただ、あのベニヤ板は、本来の胴造りを崩しかねません…」  何やら難しいことを語り出した杏子を、潤一郎がここぞとばかり に遮る。 「そういう技術的なことはあとからあとから。なあ、これから道場 完成のパーティー、やらねえか!?」 「じゅん、お前、コンパは?」 「ばーか、んなもん、なんも出来ねえ遊び人同士勝手にやってりゃ いいんだよ! こっちの方が断然いいぜ!」  やけに張り切る潤一郎の提案に、皆快く乗った。