圭太が部活をつくろうと決心し、その活動に今の自分の全てをかけ ようというこれだけの理由  何も、何も土曜日にまで来るこたあないだろうに…  詩歌が家に、朝の10時から現れたのには、さすがの圭太も閉口 した。 「傘忘れたから取りに来ただけだよ」  降らない雨を警戒すると、こうなる。 「昨日はよくも、あたしと久司君の事を追い回そうとしたわね?」 「いや、その、別にそういうつもりじゃ…」  いつも通り勝手に部屋に上がりこんできた詩歌が目にしたものは、 いくつかの走り書きがあるメモと広げられた生徒手帳。 「何やってたの、これ?」 「ああ。部活つくろうと思って、色々調べてたんだ」  人間、想像もつかない事を話されると、まず話された言葉の意味 よりも先に言葉の使われ方そのものを問い正すように出来ている。 「はあ? 今、何て言ったの?」 「だから、部活つくろうと思って、色々と…」 「あんた、何言ってんの?」 「だからあ、部活を…」 「それはわかったけど、何でまた急に…?」  得意満面に、圭太が答える。 「やっぱり、何かこう、胸の奥が熱くなるようなことがしたいんだ!」 「それだけ?」 「そう、それだけ」 「あ、そう…」  もっと色んな理由があってもよさそうなものなのに…  もしかしたら圭太って単純な、しかも相当ひどい熱血漢かもしれ ない。  今頃そんなことに気付いた詩歌だった。 「難しいんだよな、部活つくるのって。同好会ってのは簡単につく れるんだけど、部活は生徒会の承認ってのがいるんだ。だからまず、 同好会をつくろうって思うんだけどさあ。メンバーが5人いるんだ。 それと顧問の先生と。でさあ…」  やたらと楽しそうに創部について語る圭太を見て、初めは呆れて いた詩歌も、騙されたか、はたまた何かに取りつかれたかのように、 圭太の話に聞き入っていく。  面白そうだと思ったことは何でも取り込んでしまう。それが詩歌 の信条だった。 「で、何部にするの? あ、同好会だったっけ?」 「それがさ、活動内容の方は全く考えてないんだ」 「? 何それ? 普通、やりたい事が同じ人達ってが集まって、同 好会つくるんじゃないの?」  まったくその通りである。  だが、圭太はいっこうにお構い無し。 「俺は何でもいいんだ。野球はもう部活があるしさ。何か新しいこ とをやりたいじゃんか? だから、メンバーみんなに決めてもらう 方が面白くていいかなってさ」